響いた爆音 岩国FCLP <下> 再実施の懸念根強く
25年9月28日
硫黄島施設 復旧見通せず
26日、東京・市谷の防衛省の一室。中谷元・防衛相に対し岩国市の福田良彦市長たちは厳しい表情を崩さなかった。同市の米軍岩国基地での陸上空母離着陸訓練(FCLP)に抗議し、「岩国で二度と実施されないようあらゆる手段を講じていただきたい」と迫った。
「最適な場所を米側が判断する。現時点では何ら決定されていない」。同省幹部はそう応じ、再び岩国が使われる可能性を否定しなかった。
岩国基地で17~25日にあり、激しい騒音をもたらした米空母艦載機によるFCLP。地元では「再び訓練場所になるのではないか」という懸念がくすぶっている。岩国での実施は、通常使用される硫黄島(東京都)の噴火が要因だったが、島の施設の復旧時期が明らかになっていないためだ。
次回は5月ごろ
防衛省によると、島の自衛隊基地へ燃料を送るパイプラインに噴火の被害が出て復旧方法を検討しているという。例年なら次のFCLPは来年5月ごろだが、復旧のめどは「予断を持って答えられない」とする。
日本政府はトラブル時の緊急着陸先がない硫黄島から訓練を移すため、鹿児島県・馬毛島に自衛隊基地を建設している。しかし滑走路が使えるのは早くて2027年末の見通し。すぐに代替地にはならない。
とはいえ「訓練自体は不可欠」というのは日米の共通認識で、岩国市も一定の理解を示す。空母の甲板は陸地の滑走路より小さく、波で揺れる。着艦には高度な技術が求められ、パイロットが感覚を磨く必要がある。
仮に硫黄島が使えない場合、次の訓練場所はどこになるのか。在日米海軍司令部(神奈川県横須賀市)は取材に対し「悪天候や不測の事態で硫黄島で訓練が完了できない場合、指定された予備施設で行われる」と答えた。予備施設として岩国と三沢(青森県)横田(東京都)厚木(神奈川県)の4基地を挙げた。岩国を含む本土での実施を排除しなかった。
元岩国市議で基地監視団体リムピース共同代表の田村順玄さん(80)は「岩国は艦載機の拠点。米軍はFCLPをやってみたかったのではないか。繰り返されないため強い抗議が必要だ」と山口県や市に求める。
訓練拒否「困難」
別の予備施設の周辺は身構えている。住宅密集地に囲まれる厚木基地の立地自治体の一つ、神奈川県綾瀬市は「FCLPは容認できない」とのスタンス。担当者は「(厚木では)ないと信じているが可能性として注視する」と話す。予備施設が使われる場合、どの場所でも反発は必至だ。
基地問題に詳しい大東文化大の川名晋史教授は、日本が米海軍の原子力空母の「母港」である以上、「日本政府が国内でのFCLPを拒否するのは困難」とみる。仮に硫黄島が使えない場合の実施場所は「岩国での訓練の地元反応も見て日米で判断するだろう」と指摘している。(この連載は長久豪佑、川村奈菜、大平健幹、関家かれん、秋吉正哉が担当しました)
(2025年9月28日朝刊掲載)