天風録 『パパママ バイバイ』
25年9月27日
かすかなうわ言を吐いて、ユー君はわずか3歳で逝った。病院のベッドで全身は包帯でぐるぐる巻き。弟のヤス君も大やけどで同じ日に息を引き取る。読み継がれる早乙女勝元さんの絵本は1977年の悲劇に基づく▲横浜市の住宅地に米軍偵察機のファントムが墜落した。厚木基地を飛び立った直後にエンジントラブルで制御を失い、ジェット燃料が家々を焼いた。死傷者9人の中には兄弟のお母さんも。つらい皮膚移植手術に耐えたが、4年ほど後に亡くなった▲絵本は日米関係も問う。自衛隊の救助ヘリはなぜ、乗員の米兵2人しか乗せずに飛び去ったのか。現場検証も米軍主導だった。事故が起きたのは48年前のきょう。身近な不条理と重ねて考えたい▲米軍岩国基地の周辺で先週来、戦闘機の爆音が響いた。滑走路を空母甲板に見立てた離着陸の「タッチ・アンド・ゴー」訓練だ。危ないし、うるさい。防衛省を通じて「土日祝日はしない」と約束していたのに23日も飛ばした。一体どういうことか▲絵本をアニメ化した映画を約40年前、小学校の平和学習で見た。覚えているのは切ないタイトルだから。「パパママ バイバイ」。ユー君最期のつぶやきだという。
(2025年9月27日朝刊掲載)
(2025年9月27日朝刊掲載)