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響いた爆音 岩国FCLP <上> 住民 憤りや諦め交錯

 岩国市の米軍岩国基地で実施されていた陸上空母離着陸訓練(FCLP)が終わった。計7日間、延べ約36時間にわたった訓練は、異常な回数の騒音をもたらした。市民は「ようやく静かになる」と受け止め、「二度とやってほしくない」と求めている。訓練の影響や今後の課題を追った。

「容認できぬ」市は譲らず

 「騒音の回数がすごい。いつまで飛ぶつもりか」。基地がある三角州「川下デルタ」内に住む男性(80)はうんざりした様子で窓の外を見つめた。24日夜に記者が訪ねると、防音サッシを閉めたリビング内にもごう音が響いてきた。訓練が予定時間を2時間オーバーして続いた日だ。

 男性は今月、軽い脳梗塞を発症し、FCLPの期間中に入院先から自宅に戻った。療養生活では午後9時には布団に入る。しかし戦闘機は連日10時ごろまで飛んだ。「うるさくて眠れん」。テレビを見て気を紛らわせる夜が続いた。

 訓練が終わり、男性方を再び訪れた。「やっと解放される。これで眠れる」。心底、ほっとした表情を浮かべた。

鳴り続ける電話

 同じく24日。岩国市役所6階の基地政策課の部屋では電話の着信が鳴り続けていた。「体調がすぐれないのに」「犬がほえてやれん」…。ひっきりなしに苦情が寄せられた。「国にしっかり伝えます」と職員が応じる。

 訓練期間の苦情の総数は千件超。自ら電話を取り続けた岡田雅敏課長は「生活と密接に関わる切実な声が多い。影響は極めて大きい」と話す。

 市政運営の方向性として「基地との共存」を掲げる岩国市。2017年には空母艦載機の移転を受け入れ、昨年は輸送機オスプレイの配備も了承した。国や米軍の政策に理解を示してきた。

 しかし「FCLPは容認できない」との姿勢は譲らなかった。福田良彦市長は開始前、関係閣僚に中止を直談判。市議会や周辺市町も同調した。

 背景にはFCLPに対する市民の拒否反応の強さがある。岩国基地では00年9月まで不定期に実施された。当時は滑走路が沖合に約1キロ移る前。特に夜間訓練の騒音はすさまじく、家族のだんらんや受験勉強などに悪影響を与えた。「ノーに決まっている。FCLPだけはあり得ない」。25年ぶりの実施が判明した際、市幹部は即座に怒りを見せた。

 それでも訓練は強行された。さらに予定時間の超過が連日続き、通告になかった祝日の訓練も明らかになった。これには基地の存在に寛容だった市民も反発した。同市中津町の会社役員男性(68)は「訓練は仕方ないが、せめて約束は守るべきだ」と憤った。

膨らむ軍事拠点

 一方、爆音の下で多くの市民は普段通りに生活していた。「いつも地響きのような音がする。いまさら気にしても」と同市元町の40代主婦。三笠町の50代自営業男性は「国防のためにどこかの街が引き受けなくてはいけない」と語った。

 基地は現在、航空機約120機が所属する「極東最大級」の軍事拠点に膨らんでいる。ふり注ぐ騒音は既に日常だ。訓練中には「諦めている」「慣れた」と多くの住民が取材に答えた。

 滑走路を見渡せる堤防には期間中、航空機ファンに交じって地元住民の姿もあった。約3キロ離れた同市楠町の山本勉さん(78)は音が気になり足を運んだという。「米軍の思い通り。何を言っても覆ることはない」。戦闘機を見上げ、漏らした。

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「期間後半に騒音」の声

基地から6キロ 大竹の阿多田島

 米軍岩国基地で実施されたFCLPで、基地の北東約6キロにある大竹市阿多田島の住民からは「訓練期間の後半にかけて騒音を感じた」との声が上がった。

 阿多田区自治会元会長の本田幸男さん(83)は、FCLPによる影響かどうかは不明とした上で、22~25日に上空を飛ぶ航空機の騒音を複数回感じたと振り返る。「中止を求める地元の声が届かず残念。今後は実施されないよう、島全体で関心を持って訴え続けていく必要がある」と強調した。現会長の柳川美喜男さん(76)も「24、25日に騒音があった」と語る。

 大竹市の入山欣郎市長は訓練終了を受け「今後、二度と岩国基地で訓練が実施されることなく、住民の安心安全が担保されるよう引き続き国などに求めていく」とのコメントを出した。市危機管理課によると訓練期間中、FCLPに関する市への苦情はなかったという。(和泉恵太)

(2025年9月27日朝刊掲載)

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