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社説・コラム

『潮流』 私たちは隣人

■岩国総局長 白石誠

 ふつふつとした怒りが収まらない。「約束」をほごにされたから。米軍岩国基地(岩国市)での25年ぶりの騒音だ。平日だけのはずが祝日も。夜9時45分までの予定も破られ、いらだった。

 在日米海軍が空母艦載機の陸上空母離着陸訓練(FCLP)をした。17~26日の平日7日間に昼夜約6時間との通告が実施直前の12日、岩国市に伝わった。市や山口県などの猛反対をよそに、訓練は始まった。

 「7日間我慢すればよいこと」「騒音は日常茶飯事」…。基地と長く共存してきた地域だけに、諦めに似た受け止めもあった。だが、ゴーという激しい騒音を歓迎する人はいない。岩国総局の記者は総力を挙げて市民の肉声を報じた。やるせない気持ちになった。

 通告は一方的だったが、岩国市民の私は当初、日米安保の信義則に基づく「約束」と受け止めた。本来実施する硫黄島(東京都)で火山活動が続き、訓練が困難になった事情は理解できた。

 理解に苦しむのは米軍の姿勢だ。約束を果たせないなら、なぜ肉声を発しないのか。誠意が欲しい。林芳正官房長官は「米側から『運用上の理由により、詳細について差し控える旨の説明があった』」と述べた。政府も地元の思いを本当に伝えているのか疑問だ。

 米陸軍は15日、ミサイル発射装置「タイフォン」の日本国内での初展開に際し、岩国基地に報道陣を集め、大佐が「地域一帯の安全保障に資する」と語った。アピールしたい時だけ前面に出てこられても困る。

 FCLPは1日早く25日に終わったが、手放しでは喜べない。広い太平洋を挟み、日米は隣同士。隣人に一言、親しき仲にも礼儀あり。

(2025年9月30日朝刊掲載)

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