核軍縮 医師の役割議論 長崎で2~4日 IPPNW世界大会 日本開催は13年ぶり
25年10月1日
第24回核戦争防止国際医師会議(IPPNW)世界大会が2~4日、長崎市で開かれる。「核なき世界 長崎を最後の被爆地に」をテーマに34カ国・地域の医師や医学生たち約320人が参加を予定する。緊迫度を増す国際情勢を念頭に、核兵器の非人道性を共有し、核軍縮に向けて果たす役割について意見を交わす。日本での開催は広島市であった2012年以来13年ぶり。長崎市では初めて。
今大会を主催するIPPNW日本支部は米軍による原爆投下から80年の節目に核被害の実態を世界に発信する好機と捉える。一般向けにも公開する初日は、全体会議で10歳の時に長崎で被爆した三瀬清一朗さん(90)=長崎市=が体験を話す。長崎の被爆者で医師の朝長万左男さん(82)も登壇。被爆者医療に長年携わってきた経験を基に、原爆による人体への影響を解説する。
このほか、日本被団協や核兵器廃絶を目指す科学者たちの国際組織「パグウォッシュ会議」などノーベル平和賞の受賞4団体が一堂に会すプログラムもある。
2日目以降は北東アジアでの核使用リスクの削減や核兵器禁止条約の在り方などを専門家を交えて議論する。最終日に大会宣言を発表する。
国際社会では核軍縮の機運の後退が目立つ。ウクライナ侵攻を続けるロシアは核兵器使用をほのめかす。日本周辺でも中国や北朝鮮が核戦力を強化している。
IPPNW長崎県支部長を務める朝長さんは「冷戦下でも医師は国際学会で交流し、核戦争の危機感を持った有志が先頭に立って国を動かした。『核のタブー』が揺らぐ今、市民社会のリーダーとして核軍縮を再構築するきっかけとなる大会にしたい」と話している。(鈴木大介)
IPPNW世界大会の実行委員会事務総長で、広島大原爆放射線医科学研究所(原医研、広島市南区)の田代聡教授(放射線生物学)に大会の意義や展望を聞いた。
―どんな大会を目指しますか。
核兵器を巡る国際情勢は今、緊張状態だということを参加者と共有したい。IPPNWが創設された東西冷戦下以上に核兵器を使用するハードルが下がっている。世界の医師に被爆者の声を聞いてもらう。IPPNWを含む核廃絶に向けた取り組みを進めるノーベル平和賞の受賞4団体でメッセージを発信したい。
―初日は市民も参加できます。
IPPNWのメンバーは医師だが、市民と協力して発信し、政治家に働きかけることはできる。どうすれば核戦争を防げるかそれぞれの立場から考えてもらいたい。
―被爆地長崎で開く意義をどう考えますか。
被爆80年を迎え、被爆当時の状況やその後の経験を直接被爆者から聞ける最後の大会になるかもしれない。中国や北朝鮮が核戦力を増強している国際情勢を踏まえ、長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)などによる北東アジアでの核使用リスク低減の議論が深まることを期待している。
IPPNWのメンバーでも、原爆や放射線について詳しく知らない人も多い。医学的な視点から原爆被害の悲惨さを広く知ってもらうことは広島や長崎の医師の務めだ。80年たっても続く被爆による人体への健康被害を伝えたい。
―IPPNWの現状と課題を教えてください。
創設された1980年は東西冷戦下で、核戦争が起こるかもしれないという危機感が強かった。活発に活動していた当初のメンバーは高齢になった。若い世代に継承する必要があるが、なかなかうまくいっていない。
近年は原発の問題や気候変動など扱う議題の幅が広がり、意見もまとまりにくくなった。被爆地で開く今大会は原点に戻って核戦争防止に重きを置いて議論したい。(鈴木大介)
核戦争防止国際医師会議(IPPNW)
東西冷戦期の1980年、核兵器保有国の米国と旧ソ連の医師が中心となって創設した。医療の専門家として放射線被曝(ひばく)の影響について知識を広め、核戦争防止を目指す。85年にはノーベル平和賞を受賞した。世界大会は新型コロナウイルス禍を除き、1~3年に1度開いてきた。
(2025年10月1日朝刊掲載)
今大会を主催するIPPNW日本支部は米軍による原爆投下から80年の節目に核被害の実態を世界に発信する好機と捉える。一般向けにも公開する初日は、全体会議で10歳の時に長崎で被爆した三瀬清一朗さん(90)=長崎市=が体験を話す。長崎の被爆者で医師の朝長万左男さん(82)も登壇。被爆者医療に長年携わってきた経験を基に、原爆による人体への影響を解説する。
このほか、日本被団協や核兵器廃絶を目指す科学者たちの国際組織「パグウォッシュ会議」などノーベル平和賞の受賞4団体が一堂に会すプログラムもある。
2日目以降は北東アジアでの核使用リスクの削減や核兵器禁止条約の在り方などを専門家を交えて議論する。最終日に大会宣言を発表する。
国際社会では核軍縮の機運の後退が目立つ。ウクライナ侵攻を続けるロシアは核兵器使用をほのめかす。日本周辺でも中国や北朝鮮が核戦力を強化している。
IPPNW長崎県支部長を務める朝長さんは「冷戦下でも医師は国際学会で交流し、核戦争の危機感を持った有志が先頭に立って国を動かした。『核のタブー』が揺らぐ今、市民社会のリーダーとして核軍縮を再構築するきっかけとなる大会にしたい」と話している。(鈴木大介)
緊張の国際情勢共有 実行委事務総長の田代教授に聞く
IPPNW世界大会の実行委員会事務総長で、広島大原爆放射線医科学研究所(原医研、広島市南区)の田代聡教授(放射線生物学)に大会の意義や展望を聞いた。
―どんな大会を目指しますか。
核兵器を巡る国際情勢は今、緊張状態だということを参加者と共有したい。IPPNWが創設された東西冷戦下以上に核兵器を使用するハードルが下がっている。世界の医師に被爆者の声を聞いてもらう。IPPNWを含む核廃絶に向けた取り組みを進めるノーベル平和賞の受賞4団体でメッセージを発信したい。
―初日は市民も参加できます。
IPPNWのメンバーは医師だが、市民と協力して発信し、政治家に働きかけることはできる。どうすれば核戦争を防げるかそれぞれの立場から考えてもらいたい。
―被爆地長崎で開く意義をどう考えますか。
被爆80年を迎え、被爆当時の状況やその後の経験を直接被爆者から聞ける最後の大会になるかもしれない。中国や北朝鮮が核戦力を増強している国際情勢を踏まえ、長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)などによる北東アジアでの核使用リスク低減の議論が深まることを期待している。
IPPNWのメンバーでも、原爆や放射線について詳しく知らない人も多い。医学的な視点から原爆被害の悲惨さを広く知ってもらうことは広島や長崎の医師の務めだ。80年たっても続く被爆による人体への健康被害を伝えたい。
―IPPNWの現状と課題を教えてください。
創設された1980年は東西冷戦下で、核戦争が起こるかもしれないという危機感が強かった。活発に活動していた当初のメンバーは高齢になった。若い世代に継承する必要があるが、なかなかうまくいっていない。
近年は原発の問題や気候変動など扱う議題の幅が広がり、意見もまとまりにくくなった。被爆地で開く今大会は原点に戻って核戦争防止に重きを置いて議論したい。(鈴木大介)
核戦争防止国際医師会議(IPPNW)
東西冷戦期の1980年、核兵器保有国の米国と旧ソ連の医師が中心となって創設した。医療の専門家として放射線被曝(ひばく)の影響について知識を広め、核戦争防止を目指す。85年にはノーベル平和賞を受賞した。世界大会は新型コロナウイルス禍を除き、1~3年に1度開いてきた。
(2025年10月1日朝刊掲載)