社説 対イラン制裁再発動 中東の核拡散を防がねば
25年10月2日
国連による対イラン制裁が再発動した。核開発を制限する見返りに制裁を緩和した2015年の核合意の実質的な崩壊である。トランプ米政権は単独主義に走り、欧州はロ中と対立。そんな国際社会の分断が反映された格好だ。
軍事転用の疑念が消えぬイランの核開発に歯止めがかからなければ、中東地域で核拡散の懸念はくすぶり、さらに緊張する恐れがある。関係国は歩み寄り、外交による解決の努力を続ける必要がある。
核合意は10年前、国連安全保障理事会常任理事国の米英仏ロ中にドイツを加えた6カ国とイランが結んだ。関係国が利害を超えてこぎ着けた歴史的な成果と呼ばれた。
それだけに、合意崩壊に至るまでのイスラエルと米国の振る舞いは看過できない。
第1次トランプ政権は18年に合意から一方的に離脱。反発したイランが合意に背いて兵器級に迫る高濃縮ウランの生産を進めると、イスラエルと米国は今年6月、核関連施設を空爆した。
イランが「平和目的」をうたい、核兵器開発を急いだ疑いは拭えない。しかし核施設への攻撃は国際法を大きく踏み外した暴挙でしかない。
英仏独は制裁復活の仕組みを発動させ、イランから譲歩を引き出そうとしたが不調に終わった。事態は核合意の再建放棄を意味する。ウクライナ侵攻を続けるロシアにイランがドローンを供与したことも影響したようだが、トランプ政権と一線を画し、協議を継続する手はなかったのか。
制裁再発動でイランへの武器輸出は禁じられ、核開発に関係する個人や団体の資産は凍結される。友好国のロ中が制裁に従うかは不透明だ。
イランには事態を悪化させたのは米国だとの不満がある。実際、米国が離脱するまで合意内容を守っていた。今年4月から米国と新たな枠組みづくりを目指して協議を続ける中で空爆を受けた。
このままでは核開発の実態の監視が難しくなる。核武装の疑いを口実にイスラエルがまた攻撃する恐れもある。
イランの一部には核拡散防止条約(NPT)からの脱退論さえ出ている。そうなればライバル国サウジアラビアなどを中心に中東は核開発競争に陥るリスクがある。核不拡散体制を揺るがしかねない。
イランを追い詰めるのではなく、イスラエルの核兵器放棄を前提に核開発を断念させるのが本来の解決法だろう。イスラエルの核保有を黙認する「ダブルスタンダード(二重基準)」の批判に米欧は真剣に向き合うべきだ。もとよりロ中を含めた保有国は軍縮義務を果たさねばならない。
イランはかねて核武装はしないと言ってきた。ならば国際原子力機関(IAEA)の査察を完全に受け入れ、透明性を高めることが必要だ。
圧力と反発の連鎖を、対話によって断たねばならない。米欧とイランは外交による解決を探る道に立ち戻る必要がある。米国、イランの双方と友好関係にある日本は、暗礁に乗り上げた協議の再開に向けて、両国と国際社会への働きかけを強めるべきだ。
(2025年10月2日朝刊掲載)
軍事転用の疑念が消えぬイランの核開発に歯止めがかからなければ、中東地域で核拡散の懸念はくすぶり、さらに緊張する恐れがある。関係国は歩み寄り、外交による解決の努力を続ける必要がある。
核合意は10年前、国連安全保障理事会常任理事国の米英仏ロ中にドイツを加えた6カ国とイランが結んだ。関係国が利害を超えてこぎ着けた歴史的な成果と呼ばれた。
それだけに、合意崩壊に至るまでのイスラエルと米国の振る舞いは看過できない。
第1次トランプ政権は18年に合意から一方的に離脱。反発したイランが合意に背いて兵器級に迫る高濃縮ウランの生産を進めると、イスラエルと米国は今年6月、核関連施設を空爆した。
イランが「平和目的」をうたい、核兵器開発を急いだ疑いは拭えない。しかし核施設への攻撃は国際法を大きく踏み外した暴挙でしかない。
英仏独は制裁復活の仕組みを発動させ、イランから譲歩を引き出そうとしたが不調に終わった。事態は核合意の再建放棄を意味する。ウクライナ侵攻を続けるロシアにイランがドローンを供与したことも影響したようだが、トランプ政権と一線を画し、協議を継続する手はなかったのか。
制裁再発動でイランへの武器輸出は禁じられ、核開発に関係する個人や団体の資産は凍結される。友好国のロ中が制裁に従うかは不透明だ。
イランには事態を悪化させたのは米国だとの不満がある。実際、米国が離脱するまで合意内容を守っていた。今年4月から米国と新たな枠組みづくりを目指して協議を続ける中で空爆を受けた。
このままでは核開発の実態の監視が難しくなる。核武装の疑いを口実にイスラエルがまた攻撃する恐れもある。
イランの一部には核拡散防止条約(NPT)からの脱退論さえ出ている。そうなればライバル国サウジアラビアなどを中心に中東は核開発競争に陥るリスクがある。核不拡散体制を揺るがしかねない。
イランを追い詰めるのではなく、イスラエルの核兵器放棄を前提に核開発を断念させるのが本来の解決法だろう。イスラエルの核保有を黙認する「ダブルスタンダード(二重基準)」の批判に米欧は真剣に向き合うべきだ。もとよりロ中を含めた保有国は軍縮義務を果たさねばならない。
イランはかねて核武装はしないと言ってきた。ならば国際原子力機関(IAEA)の査察を完全に受け入れ、透明性を高めることが必要だ。
圧力と反発の連鎖を、対話によって断たねばならない。米欧とイランは外交による解決を探る道に立ち戻る必要がある。米国、イランの双方と友好関係にある日本は、暗礁に乗り上げた協議の再開に向けて、両国と国際社会への働きかけを強めるべきだ。
(2025年10月2日朝刊掲載)