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社説・コラム

天風録 『医師たちの誓い』

 東西冷戦さなかの40年前、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)がノーベル平和賞に輝いた。ところが、浴びせられたのは西側からの批判。西独首相は授与撤回を求める手紙を書き、米上院は非難決議を採択した▲創設者は米国とソ連の医師。一緒に突然の心臓死を研究するうち、核兵器こそ人類最大の脅威だと気づいたことが、きっかけだったという。角突き合わせている国同士だけに、西側ではソ連の手先と誤解されたようだ▲核戦争に処方箋はなく医学は人を救えない。そんな思いからIPPNWは人類を守るため核兵器廃絶を掲げる。その世界大会が長崎市できょうまで開催中だ。被爆80年の節目にふさわしい▲広島市では1989年、被爆地で初の世界大会が開かれた。創設者のバーナード・ラウン氏の開会あいさつを思い起こす。被爆の惨状に触れ、佐々木禎子さんをはじめ多くの犠牲者に誓った。この過ち、否、この犯罪を決して繰り返しはしない、と▲冷戦終結に力を尽くしたIPPNWだが、再び世界は緊迫している。だからこそ、原点に戻って核戦争防止に知恵を絞らねばなるまい。ウクライナやガザでは核保有国による戦火が続いているのだから。

(2025年10月4日朝刊掲載)

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