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パレスチナの肉声伝える 相次ぎドキュメンタリー映画 きょうから広島上映「壁の外側と内側」 配信で視聴可「ガザからの声」シリーズ

 パレスチナ自治区ガザで2023年10月7日、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まって2年を迎える。イスラエル軍の激しい攻撃で人道危機が深刻化するガザや、入植地拡大が進むヨルダン川西岸を取材し、日常のニュース報道では伝え切れない人々の肉声を共有しようと試みるドキュメンタリー映画が相次いで公開されている。(渡辺敬子)

 広島市西区の横川シネマで4~17日に上映する「壁の外側と内側~パレスチナ・イスラエル取材記」は、元新聞記者でボーン・上田記念国際記者賞も受けた中東ジャーナリスト川上泰徳監督が初めて映画に挑んだ。アラビア語に堪能な川上監督が24年夏、スマートフォンで自ら撮影しながら1カ月かけて取材した。

 「暴力に耐え、自分の言葉で訴える人々に出会った。悲愴(ひそう)感はなく、言葉は強さと確信に満ちていた。そんな普通のパレスチナ人の姿を見てほしい」と川上監督。初日午前10時からの上映後、オンライン映像で劇場とつなぎ、観客と対話する。

 映画配給や映画館運営のアップリンク(東京)はガザに拠点を置く映像制作会社と組み、現地で取材した映像を日本で編集し、公開する「ガザからの声」シリーズを今年8月から始めた。中国地方の劇場公開は決まっていないが、インターネット配信で視聴できる。上映・配信に伴う収入を制作費とし、支援も募っている。

 第1弾で紹介したのは、3月のイスラエル軍の攻撃で両脚と左手の指4本を失った16歳の少年。「トランプ(米大統領)がガザの人々を追い出すと言った時、意地でも残ろうと思った」と打ち明ける。いつか義足を装着したら、得意だった体操を教えるクラブを開く夢を語る。

 今月31日には第2弾「ミュージシャン・アハマドの物語」を公開する。12回もの避難を強いられ、頭上をドローンが飛ぶキャンプのテントで子どもたちに音楽を教えるギタリストの男性は「俺たちは生きるに値する。抵抗として歌い続ける。不正義に沈黙することは加担だ」と訴える。

 川上監督と同じくヨルダン川西岸で取材した映画「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」は、3月に米アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受けたが、出演者がユダヤ人入植者に撃たれて死亡する事件も起きている。暴力がやまない世界にカメラで向き合い、出口を模索する映画人の勇気と覚悟が、それぞれの作品に満ちている。

(2025年10月4日朝刊掲載)

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