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連載・特集

被団協ノーベル賞発表1年 <中> 変わらない国

禁止条約 働きかけ強める

議員の「仲間」づくり模索

 「核兵器禁止条約に対する政府の立場は何も変わっていない。怒り、何とかしたいという声が集まっている」。日本被団協の浜住治郎事務局長(79)=東京都稲城市=は9月28日、都内であったシンポジウムで訴えた。 被団協は被爆80年の今年、禁止条約に後ろ向きな政府への直接的な働きかけを強める方針を打ち出した。まず全ての国会議員に対し、核兵器禁止条約への賛否を問うアンケートの準備を始めた。

 野党と公明党の議員の一部には署名・批准への賛同の声があるものの、自民党議員の間では、締約国会議へのオブザーバー参加すら否定的な意見が根強い。浜住事務局長は「政府を変えるためには、国会議員の考えを変えなければいけない」と強調した。

 ノーベル賞を受賞した翌月の1月、被団協役員たち8人は石破茂首相の招待を受ける形で官邸で面会した。満を持し、3月に控えた禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加を迫った。しかし限られた約30分間、首相が安全保障の持論を述べる時間にほぼ費やされた。「総理の独壇場となってしまった」。ある役員は苦々しく振り返る。

前向き姿勢一転

 禁止条約は被団協の運動とも連動して2017年に成立、21年に発効した。それでも政府は核兵器保有国が加わる核拡散防止条約(NPT)を軸に核軍縮を進める道筋に固執。被爆地の広島選出の岸田文雄政権下でも禁止条約は「出口として重要」と言うにとどめた。

 続く石破氏はオブザーバー参加について従来の政府見解より前向きな姿勢を見せる。首相就任前の自民党総裁選で「選択肢の一つ」と述べ、就任間もない昨年10月11日、折しも平和賞が発表された。余韻さめやらぬ中の2日後、首相は「真剣に考える」と踏み込んだ。

 オブザーバー参加した国の事例を検証するよう首相指示を受け、外務省には緊張が走った。同省幹部は、平和賞受賞と相まって反核世論が高まりかねないと懸念。「核抑止の必要性を、どう国民に理解してもらうかだ」と漏らした。

 だが結局、政府は核抑止政策を堅持するため、参加見送りを決めた。石破首相は次善の策として自民党議員の派遣を検討したが、早々に断念した。関係者によると、岸田氏や森山裕幹事長が異論を示したという。

 平和賞決定から1年。欧州や中東、東アジアでも核を巡る国際情勢はますます悪化し、日本は米国とともに抑止力の強化を加速させる。

国会前デモ企画

 逆境の中、被団協は国会議員アンケートを通じて自らの考えを理解してもらおうと狙う。平和賞への関心をてこに議員の「仲間」を増やす。今月9日は与野党幹部に対し、超党派の議員懇談会の設置を要望する。そして11月21日には国会前に被爆者たち数百人を集め、約20年ぶりの街頭デモを企画している。

 浜住事務局長は広島の胎内被爆者。原爆の記憶も、1970、80年代の熱い運動の経験もない。被団協の歩みを学びながら、新たな仕掛けづくりを模索してきた。「世論をどう盛り上げ、政治を変化させていくか。それを続けてきたのが被団協だ」。老骨にむちを打つ。(宮野史康)

(2025年10月7日朝刊掲載)

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