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社説・コラム

天風録 『ダビデとゴリアテ』

 歌手のボウイにサッカーのベッカム。よく聞くデビッドという名が旧約聖書の英雄ダビデに由来するのは欧米の常識らしい。羊飼いの少年が古代イスラエルの敵ぺリシテ人の巨人兵ゴリアテに石を投げ、倒した話とともに▲王となり、長く国を治めたダビデは敵を屈服させて土地を奪う。史実とすれば3千年前のこと。はるか昔の遺恨が現代に続くと思うと、やるせない。パレスチナの地名の語源が「ペリシテ」にあることもよく知られる▲偉大な王に倣いたいのだろう。長い流浪を経て国を築いたイスラエルでは「ダビデ回廊」という構想も語られると聞く。エジプトのシナイ半島からシリアのユーフラテス川まで勢力を拡大する―。パレスチナなど踏みつぶして当然の感覚になるのか▲パレスチナ自治区ガザの戦闘開始からきのうで2年。命の危機にある人たちから見れば巨大な軍事力のイスラエルこそゴリアテに違いない。新たな和平計画にどこまで歩み寄れるだろう▲「国は国に向かって剣を上げず、もはや戦いを学ぶことはない」。旧約聖書にはダビデより後の預言者の言葉が残り、国連本部の石碑に刻まれる。守りたい家族はダビデにもゴリアテにもいたはずだ。

(2025年10月8日朝刊掲載)

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