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社説・コラム

社説 ガザ和平計画合意 人道危機の解消に全力を

 2年に及んだ戦争が今度こそ終わることを強く望む。

 トランプ米大統領が提示したパレスチナ自治区ガザの和平計画を巡る交渉で、イスラエルとイスラム組織ハマスが合意に達した。先行きに光が見えたことを歓迎する。

 「第1段階」の合意であって不透明な部分は残る。ガザに本当の平和が訪れ、イスラエル軍の攻撃に脅かされてきた市民の不安が消えるまでに曲折があろう。とはいえ歩み寄れた意味は極めて重い。

 中東外交で場当たり的な対応をしてきたトランプ氏がハマス寄りだったアラブ諸国も巻き込んで包囲網を広げ、かつイスラエルにも圧力をかけた。交渉難航から一転して合意したのは、その成果とみていい。当事者の双方がトランプ氏に謝意を表明した。

 問題は確実に実行されるかどうかだ。ひとまず合意されたのはハマスが2023年10月7日のイスラエル奇襲で拉致した遺体を含む人質48人の解放と、ガザからのイスラエル軍の一定のラインまでの部分的な撤退である。ハマスの声明によると、人道支援物資の搬入やイスラエルが収監するパレスチナ人との捕虜交換も含まれるという。

 双方の住民が手放しに喜ぶ光景が伝えられた。それぞれ合意に反発する強硬派はいようが、後戻りは許されまい。ことし1月の停戦合意は程なく水泡に帰した。同じことを繰り返してはならない。ハマスは一刻も早く人質解放に踏み切り、イスラエルの方は地上侵攻や空爆を全面中止してこれ以上の攻撃はしない、と明確に約束すべきである。

 この2年間の惨禍を思い返したい。ハマスの奇襲で奪われたイスラエル側の約1200人の命も当然重いが、ガザへの猛攻で犠牲になった人は6万7千人を超えた。うち2万人以上が子どもである。破壊されたがれきに埋もれるなどした行方不明者も1万人近いと推定されている。

 ガザ全体の8割がイスラエルの軍事区域となり、住民の多くが仮設テントに避難したままだ。医薬品不足に飢餓が加わり、命を落とす人たちも増えていた。和平を考える際に何より重視すべきが深刻な人道危機の現実だろう。今こそ国際社会を挙げて協力し合い、その解消とガザの復興支援に全力を注ぎたい。

 トランプ氏の20項目の和平計画には簡単ではないものが並ぶ。戦後統治にハマスの関与を認めず、統治の監督機関トップに米大統領が就く。米国がアラブ諸国と連携して治安維持部隊を創設する…。

 イスラエルはガザの占領や併合はしないと明記するなど注目すべき点もあるが、要は米国主導で仕切るとも読み取れる。和平計画の合意にはカタール、エジプト、トルコなども貢献した。より幅広い枠組みが必要ではないか。

 合意を歓迎した国連のグテレス事務総長はガザ支援強化を表明し、パレスチナ国家樹立によるイスラエルとの「2国家共存」への機会だとも呼びかけた。その通りだろう。この問題で曖昧な言動を繰り返す日本が今後のガザにどう関わるのかも問われる。

(2025年10月10日朝刊掲載)

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