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平和市長会議 長崎で総会 核兵器廃絶 連携今こそ

 長崎市で開かれる平和市長会議の第7回総会は、2020年を目標とする核兵器廃絶への道筋をどう具体化するかが焦点となる。加盟都市が連携して行動し、国際的な廃絶機運を盛り上げる取り組みが不可欠だ。平和市長会議で会長を務める秋葉忠利広島市長と、副会長の田上富久長崎市長のインタビューを軸に、今回の総会を展望する。

≪平和市長会議総会の主な日程≫

 7日 2020ビジョンキャンペーン協会運営委員会・役員会▽歓迎レセプション
 8日 開会式▽理事会▽全体総会
 9日 分科会▽アピール起草委員会
10日 全体会議▽閉会式
(会場は長崎市の長崎ブリックホール、ホテルニュー長崎)


秋葉忠利・広島市長 市民の声で世界動く

■記者 東海右佐衛門直柄

  ―核をめぐる世界情勢をどうみますか。
 北朝鮮が核実験をしたから危険が増したとの見方は間違いだ。戦後64年間、核兵器を持ちたい国は増え続けてきた。あと数年で世界は、すべての国が核兵器を持つか、どの国も持たないかの岐路にさしかかる。その危機に直面している。

 ―そうした危機に対し都市が連携する意義は。
 平和市長会議にはイスラエルから47都市、パレスチナ自治区からも26都市が加盟している。政府同士が敵対しても、都市間で話をすれば「市民がこれ以上殺される戦争はやめてほしい」と一致する。

 戦争の悲劇はゲルニカ、アウシュビッツ、ヒロシマなど都市で起きてきた。悲劇を共有してきた都市は「核兵器を使われたらとんでもない、廃絶のために頑張ろう」となる。都市同士が力を合わせることで世論を高め、各国政府を動かすことができる。今後は米国やロシア、中国などの市民の声をつないでいくことが重要だ。

  ―被爆国日本政府に何を求めますか。
 都市の立場からすると「核の傘」はとんでもない話。「何かあったら攻撃するぞ」という脅し合いだ。そんな非倫理的な政治はおかしい。倫理を復活させる運動を平和市長会議で展開していく。それは、オバマ米大統領のプラハ演説の考えとも共通する。

 政府には「すべての都市が平和市長会議に入り核兵器廃絶のために努力することを歓迎する」と言ってほしい。2020年までの核兵器廃絶を目指す「2020ビジョン推進法」をつくり、政府が先頭に立ってもらえれば心強い。そのためにも、平和市長会議の国内加盟都市を増やしたい。

  ―来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議での「ヒロシマ・ナガサキ議定書」採択に向け、どう取り組みますか。
 平和市長会議の加盟都市から各政府にアプローチしてもらう。まず今年秋の国連総会で、議定書をNPT再検討会議で検討するよう求める決議が採択されることが重要。そのために、あらゆる手を尽くしたい。6日の平和記念式典に訪れる各国の駐日大使を通じ、それぞれの政府への働きかけも続けたい。

 今回の総会では、議定書採択に向けた行動計画をつくる。加盟都市を増やし、世界の大多数の市民が声を上げて国連を動かすシナリオをつくりたい。


田上富久・長崎市長 国際世論つくる場に

■西日本新聞長崎総局 一ノ宮史成

  ―核をめぐる世界情勢と自治体の役割をどう認識していますか。
 核兵器が存在する限り、北朝鮮の核実験のようなことが繰り返される。危機を脱するには核兵器を無くすしかなく、国家の枠組みを超えて廃絶の国際世論をつくる必要がある。「核兵器は人類に必要ない」とストレートに声を上げることができるのが自治体や市民であり、そういう仲間を増やすことが非常に大事だ。世界と日本、子どもたちの未来のために、廃絶の世論を広げるのが被爆地の役割だと考える。

  ―広島市とどう連携しますか。
 「ヒロシマ・ナガサキ」とつなげて呼ばれる街は世界にほかにない。秋葉忠利市長と同行した5月の訪米でも、一緒に訴えれば発信力が高まると感じた。オバマ大統領を含め世界のリーダーに被爆地を訪れてもらえるよう、さまざまな場面で連携していきたい。

  ―日本政府に求めたいことは。
 北東アジア非核兵器地帯の実現を真剣に検討すべきだ。「核の傘」ではなく「非核の傘」を持つべきだ。非核三原則を法制化し、揺るぎない姿勢を内外に示さなければ、国際社会で廃絶を実現するための議論はできない。

  ―平和市長会議の現状や将来をどうとらえていますか。
 漠然と「核兵器を無くしましょう」と言うのではなく、目標を定め、期限を設定して行動することで参加都市も増えた。「目標に一歩でも近づいていく」意思を共有することは非常に大事で、前向きな議論も可能になる。ハードルを一つ一つ越え、ゴールに近づくほど、賛同都市はさらに増えるはずだ。

  ―総会に向けた意気込みを聞かせてください。
 来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議を控えた重要な時期であり、意義は大きい。参加都市の総意として、オバマ大統領を後押しする国際世論をつくる会議にしたい。長崎は世代や宗教の垣根を越えて平和を訴えてきた。被爆医師の故秋月辰一郎先生が唱えた「小異を残して大同につこう」を実践してきた。そうした街のあり方を通し、「長崎を最後の被爆地に」との強いメッセージを発信したい。


ベルギー・イーペル市 2020ビジョンキャンペーン協会

  ■記者 金崎由美

 ベルギー西部のイーペル市に「2020ビジョンキャンペーン協会」の事務所がある。同ビジョンとヒロシマ・ナガサキ議定書を世界にアピールする前線拠点である。

 ベルギー国内法に基づく非政府組織(NGO)として2006年7月、イーペル市から庁舎内の一室の無償提供を受けて開設。平和市長会議、イーペル市の負担金と寄付金で活動する。

 来春の核拡散防止条約(NPT)再検討会議での議定書採択を当面の目標に据え、ポル・デュイベッテル事務局長(47)は各国政府や議会へのロビー活動に飛び回る。

 欧州議会は今年4月、ヒロシマ・ナガサキ議定書に言及した軍縮・不拡散決議を賛成多数で可決した。6月には1200都市が加盟する全米市長会議が、2020ビジョンの内容に沿った決議を採択した。

 第1次世界大戦の主戦場だったイーペル。ドイツ軍の毒ガス攻撃を受け、中世ギルド(商業組合)の街並みは焼き尽くされた。石積みの庁舎は戦後の復刻だ。被爆地広島、長崎とは「大量破壊兵器の被害者」という共通点がある。

 長崎での総会に出席するデュック・デハーネ市長(58)は「戦争で犠牲になるのは都市と市民を合言葉に、ヒロシマ・ナガサキと連携したい」と誓う。


フランス平和自治体協会顧問 美帆シボさん 

■記者 金崎由美

 パリ近郊のマラコフ市に住むフランス平和自治体協会顧問の美帆シボさん(59)=写真=は、平和市長会議前身の世界平和連帯都市市長会議の時代から含め、海外参加で唯一の総会皆勤者だ。「2020ビジョンをさらに広める機会に」と今回、同市事務総長の夫ミシェルさん(61)と長崎入りする。

 静岡県出身。結婚を機に、核兵器保有の肯定論が根強いフランスに住んで34年になる。多彩な平和活動を続け、ヒロシマとの縁を深めてきた。1985年の第1回総会に招かれて以来、市長会議をフランスに根付かせることに尽力してきた。

 「保有国や米国の核の傘の下にいる日本にとって、政府レベルでは言いにくいことも多い。私たちは、市民の立場から率直に廃絶を主張できる」と平和市長会議の存在価値を再認識。同時に「4年ごとに被爆地に集まるだけでは市民の心に届く活動になりにくい」と課題も指摘する。

 フランス平和自治体協会は1998年、シボさんらが中心となって発足した。「各国内で自治体の横のつながりを強め、平和事業を継続することが不可欠」と強調する。

 平和市長会議 
 1982年に広島、長崎両市長の呼びかけで発足した「世界平和連帯都市市長会議」が前身。非政府組織(NGO)として1990年に国連広報局に登録。2001年に現在の名称に変更した。2008年1月、それまで広島、長崎市だけだった国内の加盟都市を拡大する方針を決定。2009年7月、加盟は3千都市を超えた。

  ヒロシマ・ナガサキ議定書
 2020年までの核兵器廃絶を目指す「2020ビジョン」を実現するため、平和市長会議が2008年4月に提唱した。(1)非保有国の新たな取得と保有国の使用につながる行為の即時停止(2)廃絶の国際的枠組み合意に向け、保有国に誠実な交渉開始を要求(3)2015年までに取得や使用につながる行為禁止を法制化(4)2020年廃絶を実現する具体的プログラムを策定―の具体的な手順を提起。2009年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議での採択を目指している。

(2009年8月3日朝刊掲載)

 

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