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連載・特集

緑地帯 瀬戸一樹 「写真でみる広島の神社」編集余話⑥

 写真集の企画がスタートし、昨秋の発刊に至るまで約2年。NHK広島放送局の密着取材を受けたことも良い思い出だ。編集会議や献本の発送作業、さらにはJR広島駅前の書店であった出版記念トークイベントまで番組で取り上げていただいた。常に、視聴者や地域の目線に立った鈴木昭弘ディレクターのアドバイスは、編集過程で欠かすことができないものだった。

 昨年6月、広島県青年神職会と出版社の担当者と行った同県世羅町の野原八幡神社での調査も、鈴木さんが一緒だった。事前に拝見していたある1枚の古写真が撮影された経緯が知りたかった。1940年9月、野原八幡神社の神門前の階段に老若男女がずらりと並んだ記念写真。宮司の竹廣浩二さん、総代長の中村節男さんたちに聞き取りをした。

 野原八幡神社には大きく引き延ばし、額縁に入れて掛けてあった。写真の下には手書きで「吾(わ)が同胞の無事帰還を祈るため、神社巡拝する津久志の真剣な人達」と記されている。中村さんによると、はがきサイズの同じ写真を保管している家庭もあり、「当時、各戸に配られたのではないか」という。「津久志の真剣な人達」がどなたなのかもご説明くださった。現地で知り得たことは多かった。

 のどかな田園風景が広がる世羅からの帰り道。「戻ってきて」「帰りたい」…。当時の人々の声が聞こえたような気がした。想像を絶する戦争の記憶に胸が締め付けられた。(広島県青年神職会会長=廿日市市)

(2025年10月15日朝刊掲載)

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