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戦時下の不安 奪われた希望 被爆死した女性たちの「声」テーマ広島でインスタレーション 小林清乃さん

手紙を基に台本 朗読流す

 広島で被爆死した女性をはじめ、複数の女性が敗戦前後につづった50通余りの手紙。それらを再構成した音声をテーマとするインスタレーション(空間構成)が、広島市中区のギャラリーGで公開されている。よみがえった「声」は、戦時下の日常や募る不安、奪われた希望を生々しく伝える。

 東京を拠点とする現代美術作家の小林清乃さん(43)が手がけた。手紙は9年前、古書店で入手した木箱に収められていた。大半は1945年3月から1年間の消印。都内の同じ高等女学校で学んだ8人が卒業後、ある同窓生に宛てたものだった。住所の表記から、1人が広島から投函(とうかん)していたことが分かった。

 小林さんは手紙を基に、匿名性を高めた7人分の台本を制作。現代の女性に朗読してもらい、録音した。会場では10台のスピーカーから声が響く。「会いたくて会いたくて」「何のために人間は生きてこうしているのかしら」。島根や宮崎など全国に散った女性たちの手紙には、再会を切望しつつも、未来を憂う言葉が入り交じる。

 本作「Polyphony1945」は群馬、東京に続き3回目の公開となる。広島展では手紙の書き手の一人、被爆死した蕗子(ふきこ)さん(仮名)を軸とする新作を加えた。

 蕗子さんの実際の手紙は45年6月で途絶える。小林さんは昨年から広島で綿密な調査を実施。手紙の記述や資料から、蕗子さんが当初疎開した三次市の寺院跡や、広島市で下宿していた親戚の家の跡、県庁での勤め先などを突き止めた。結果を踏まえ、蕗子さんが8月6日に筆を執ったという想定で架空の手紙を作り、その朗読を録音した。

 家族の反対を押し切って広島市に移り、働くことを楽しみにしていた蕗子さん。被爆当日の足取りや遺族の行方は不明なままだ。小林さんは「大文字の歴史には残らない声なき声に、思いをはせてもらえれば」と願う。展示は19日まで。会期中無休。18日午後5時から小林さんと同ギャラリー松波静香ディレクターの対談がある。(福田彩乃)

(2025年10月16日朝刊掲載)

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