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社説・コラム

社説 米露の核軍縮 厳格な枠組みづくり急げ

 トランプ米大統領とロシアのプーチン大統領が、ハンガリーの首都ブダペストで、再会談することで合意した。日程は未定だが、トランプ氏は「約2週間内」に実施したいとの意向を示している。

 両氏は8月、ロシアによるウクライナ侵攻後、初めて首脳会談をしたが、大きな成果はなく和平交渉は停滞している。再会談の先行きも不透明だが、一刻も早く停戦を実現させなければならない。

 同時に協議を急がねばならないのが、米ロ間の核軍縮である。両国間で結ばれた唯一の核軍縮合意「新戦略兵器削減条約(新START)」が来年2月に失効するからだ。

 プーチン氏は先ごろ、失効後も両国が条約の内容を1年間順守することを提案した。トランプ氏も「良い考えだ」と述べた。プーチン氏にとっては、ウクライナ侵攻を巡ってロシアへの制裁強化に傾くトランプ氏を核軍縮で対話に誘い込む狙いもあるようだ。そうだとしても近年、暗雲が垂れ込める米ロの核軍縮の中で薄日が差したといえよう。

 新STARTは2011年、オバマ米政権下で発効した。両国が保有する戦略核の配備数を、米ロ核軍縮史上、最低水準に制限した。戦略核とは、遠く離れた相手国の首都などを狙う長距離の核戦力のことである。

 条約の規定上、一度に限り5年間の延長ができることになっており、21年1月、5年の延長で合意していた。ところがロシアはウクライナ侵攻後の23年、履行停止を表明。その後、これまでに米ロ間で条約延長に向けた本格的な協議が行われているとの情報はなかった。

 折しもノルウェー・ノーベル賞委員会が日本被団協へのノーベル平和賞授与を発表してから1年。核兵器使用が人類に何をもたらすのか、身をもって訴えてきた被爆者に世界が改めて注目する機会となった。だが核を巡る深刻な情勢は変わらない。

 世界には今なお1万2千発以上の核弾頭が存在し、その約9割を保有しているのが米国とロシアである。核軍縮は両国にかかっているといっても言い過ぎではあるまい。

 冷戦後、米ロ間にできた核軍縮の枠組みで現在残っているのは新STARTのみ。後継となる条約が不可欠だ。

 トランプ氏はかねて、2国間条約では、軍拡を続ける中国に制限がかけられないとして懐疑的な考えを示してきた。しかし核超大国を縛るものがなければ、世界の核軍拡はますます進む。

 新STARTを1年順守するというのは、暫定措置に過ぎない。しかもこの条約はあくまで戦略核が対象である。ロシアがウクライナに対して使用をちらつかせる戦術核や、トランプ氏が欧州への再配備を検討する中距離ミサイルは対象でないことを忘れてはいけない。

 被爆者の訴えは、核使用は許されないという「核のタブー」を築いてきた。それが日本被団協へのノーベル平和賞の授賞理由でもあった。核兵器を持つ国には、厳格な枠組みづくりを急ぐ責任がある。

(2025年10月19日朝刊掲載)

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