天風録 『被爆地への「村山談話」』
25年10月18日
学徒動員され、歩兵部隊の軍曹として熊本県で終戦を迎える。広島、長崎の惨状を伝え聞き〈絶対に戦争なんかしちゃいかん〉と強く思ったという。100歳の古老が昨夏、本紙の取材に対し、こんな電子メールを返してくれた▲長い眉毛がトレードマークで、「トンちゃん」が愛称といえば差出人は思いつこう。1994~96年に首相を務めた村山富市さんだ。きのう訃報に接した▲感慨深いと振り返ったのは首相として臨んだ「8・6」「8・9」式典だ。社会党議員として被爆者の訴えをくみ取ってきたことに触れ、〈何としても救済をやり遂げる決意〉で臨んだという▲不定期だった首相の式典出席はこれ以降、当たり前の光景となった。〈世界に発信する平和のメッセージ〉と重んじた首相あいさつはどうか。近ごろは過去の文面を「コピペ」したり、読み飛ばしたり。〈もっと真剣に向き合ってほしい〉。村山さんも腹に据えかねていたようだ▲メールは被爆地に向けた、もうひとつの「村山談話」といえないか。その結びで被爆国政府にくぎを刺している。〈核兵器の究極の廃絶を目指し、平和国家として、国際的な軍縮を積極的に推進していく責任がある〉
(2025年10月18日朝刊掲載)
(2025年10月18日朝刊掲載)