[託す1票 広島県知事選2025] 平和行政 NPO法人 ANT―Hiroshima理事長 渡部朋子さん(71)=広島市安佐南区
25年10月21日
核廃絶へ 県・市連携を
ヒロシマの名を背負う首長には特別な責務がある。米軍の原爆投下で亡くなった人の思いを背に世界、あるいは日本の政府に向かって、ものを言い続けないといけない。
≪広島県は2013年から核軍縮や軍備管理を話し合う有識者会議「ひろしまラウンドテーブル」を主導する。一方、広島市は平和記念式典の開催や原爆資料館(中区)の展示を通じ、被爆の惨禍を伝えている。≫
8月の式典で核抑止論からの転換を訴えた湯崎英彦知事のあいさつは説得力があったし、ラウンドテーブル開催にも意義はある。ただ市との歩調は合っていないように映る。核兵器が使われる恐れは差し迫っており、県も市も全てのリソースを集め、連携しながら廃絶に取り組むべきだ。危機感を持たねばならない。
≪運営する法人では国内外の若者を研修に受け入れ、被爆証言に触れてもらう活動も進める。≫
平和を考える時、異なる国籍や文化を持つ人々と認め合って暮らす多文化共生という土俵が重要になる。学校教育にも、その視点を十分に組み込んでほしい。
平和教育は市だけの問題でもない。県も教育を通じ、住民の意識を耕し育てる役割がある。県北や県東部も含め、県全体で核兵器廃絶の動きをつくり出せれば、日本被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員がノーベル平和賞受賞後に唱えた「大運動」につながる。
≪最大級の被爆建物、旧陸軍被服支廠(ししょう)(南区)は、県が所有する3棟の保存を決めたものの、活用策は決まっていない。≫
県、市が国の財政支援も得て、方向性を定めてほしい。例えば、被爆者の遺品や文書などを安全に保管する場所にしてはどうか。資料は人類の遺産であり、散逸を防ぐため議論を急いでほしい。(聞き手は下高充生)
(2025年10月21日朝刊掲載)