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社説・コラム

天風録 『ヒロシマの物理学者』

 各大学には強みを持つ分野が幾つかある。広島大の場合、自然科学系なら物理学も、その一つ。源流をなしたのが、湯川秀樹さんをはじめ最先端の学者と深い親交のあった三村剛昂(よしたか)さん。きのう没後60年を迎えた▲広島大の前身の広島文理科大時代に理論物理学研究所を発足させ、初代所長に。原爆で建物や所員の多くを失ったが、出身地の竹原市で何とか再開にこぎ着ける。真理探究への情熱が不屈の精神の礎だったのだろうか▲被爆の惨状を身をもって知る者として、核兵器反対を貫いた。1952年の日本学術会議で、原子力研究を巡る提案に真っ向から反論する。「一度間違うと、すぐ原爆につながる」と熱弁をふるい、提案は撤回された▲63年には、湯川さんたちが始めた科学者京都会議の第2回開催を竹原で引き受ける。核廃絶を目指す科学者らのパグウォッシュ会議の日本版。世界の人々は少数の核保有国の指導者の「人質」だ―。核状況に鋭く切り込んだ当時の声明が印象に残る▲パグウォッシュ会議が今週末から広島市で開かれる。湯川さんや三村さんの遺志を継ぐ者が集えば、いずれ見つけ出せるのではないか。私たちを人質の鎖から解き放つすべを。

(2025年10月27日朝刊掲載)

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