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社説・コラム

社説 日米首脳会談 「力による平和」でいいのか

 高市早苗首相はきのう、来日中のトランプ米大統領と初めて対面で会談した。ただ両首脳にとってハイライトは、場所を米原子力空母ジョージ・ワシントンに移しての演説だったのではないか。

 首相は「防衛力を抜本的に強化し、この地域の平和と安定に貢献していく」と表明した。中国や北朝鮮の軍事力強化はもちろん看過できない。しかし、米軍と一体化して力に力で対抗する発想では地域の緊張を高めるだけだ。

 トランプ氏に壇上へ呼び寄せられ、高揚している首相を見ていると、平和国家としての日本の歩みを軽んじているのではないか、との疑念を抱いてしまう。

 トランプ氏は訪日後、中国の習近平国家主席と韓国で首脳会談を予定する。米側にはその前に、日本との同盟関係の強固さを中国に誇示する狙いがあったのだろう。対中けん制に今回の来日が利用された面は否めまい。

 トランプ氏が、安倍晋三元首相と関係が近かった首相に好感を抱いていることははっきりした。首相は会談で日米同盟に関し「世界で最も偉大な同盟になった」と強調。トランプ氏は日本が「防衛能力を大幅に強化しようとしている」と評価し、米国の防衛装備品の購入拡大を歓迎した。

 だが防衛力強化は、国内の議論などをすっ飛ばした約束である。こうした首相の姿勢を認めるわけにはいかない。

 両首脳はレアアース(希土類)など重要鉱物の供給、確保に関する文書に署名した。米原子力空母に並ぶ姿を示すことも含め、米国の対中戦略に日本が不可欠だと位置付ける狙いがあるのだろう。

 米中両国は関税や台湾を巡り、緊張が高まっていた。30日の首脳会談に先立つ閣僚級協議で、中国がレアアースの輸出規制を1年延期し、米国の対中100%追加関税も回避される見通しとなった。

 経済面の雪解けにとどまらず、米国が安保面で中国に譲歩する可能性もある。そうなれば、日本ははしごを外される。頭越しに中国と取引される恐れはないのか。

 日本は東アジアの安定に向けて中国など関係国と対話を重ね、自由貿易体制を維持していくことが重要である。中国とは経済的なつながりも大きい。トランプ氏の対中戦略の「本音」が判然としないだけに、したたかさも必要だ。

 米国の抑止力頼みでは外交の選択肢を狭める。要求に唯々諾々と応じる「対米追従」でなく、耳の痛いことでも率直に意見交換できる同盟関係を目指すべきだ。

 その意味でも首相がノーベル平和賞にトランプ氏を推薦すると伝えたのには首をひねらざるを得ない。パレスチナ自治区ガザを巡る停戦合意などに貢献したと持ち上げたがロシアのウクライナ侵攻では立場をころころ変え、ガザの和平計画の行方は未知数だ。

 両首脳が共同記者会見をしなかったのは異例だ。「日米同盟が外交・安全保障の基軸」(首相)と言うのなら、会談内容などをブラックボックスにせず、国民に説明をしなければならないはずだ。

(2025年10月29日朝刊掲載)

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