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社説・コラム

『潮流』 先住民の聖なる山

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 日本被団協のノーベル平和賞受賞が決まってからの1年間、草創期の関係者による著書や演説原稿に目を通す機会が増えた。最近は、1985年に広島市内であった国際会議の報告集を手に取り、広島県被団協の初代理事長などを務めた故森滝市郎さんのあいさつ文を読み返した。

 森滝さんは、核兵器や原発用に世界各地でウランが採掘される中、多くの作業員や周辺住民がヒバクシャとなったと強調。さらに、一部の鉱山は「先住民の聖なる山」にあり、採掘反対は「世界の反核運動の中で最も切実で真剣」とも語っている。

 広島から被爆者運動の先頭に立った人が、先住民の聖なる山が荒らされるという側面からも核被害を深刻視していたのだ。

 40年前の洞察に再び当たったのは今月上旬、森滝さんの次女春子さんが共同代表を務める市民団体などが広島市内で「世界核被害者フォーラム」を開いたからだ。

 登壇した米ニューメキシコ州に住む先住民のリオナ・モーガンさんは、くしくも「私たちの聖なる山で複数のウラン採掘計画が提案されている」と訴えた。冷戦期に核兵器材料の供給元だった地域で、ウラン採掘が再開されるかもしれないという。フォーラムは、先住民が住む土地を奪い、支配する「核植民地主義」が軍事、民生を問わず核利用の本質だと参加者間で認識する機会となった。

 被爆地では、核兵器が使われた「結果」に焦点を当てがちだ。だが、この瞬間も採掘段階などの核被害は存在する。当事者にとっては人間の尊厳の根幹と言うべき、固有の文化や日常の営みが奪われている。「被害」「犠牲」をどう捉えているのか、私自身も問われていると思う。

(2025年10月30日朝刊掲載)

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