社説 トランプ氏「核実験指示」 実行に移してはならない
25年10月31日
													 トランプ米大統領がきのう、核兵器の実験を国防総省に指示したと交流サイト(SNS)で発表した。核超大国の米国は臨界前核実験を続けており、トランプ氏の言う実験が何を指すのか分からないが、核爆発を伴うものであれば1992年以来となる。暴挙であり、実行に移してはならない。
SNSの中でトランプ氏は、他国の核強化を踏まえ「対等な立場」になる必要があると主張。中国やロシアへの対抗心を示し、実験に向けた作業は「直ちに始まる」とした。人類滅亡の脅威でしかない核兵器の開発を競い合う愚かさに気付くべきだ。被爆地の広島、長崎から「断じて容認できない」と反発の声が上がるのは当然である。
92年以降、米国は核弾頭の性能や安全性の評価、改良を臨界前核実験で進めた。核分裂の連鎖反応が続く「臨界」にならないよう少量のプルトニウムなどの核物質に高性能火薬の爆発で衝撃を与え、反応を調べる手法である。そこから先に踏み込むのなら、核政策の歴史的な転換となる。
トランプ氏は、他国が実験を続ける中で「やむを得ない選択だ」と説明した。だが今世紀に入って核爆発を伴う兵器実験をした国は北朝鮮しかない。中国は96年、ロシアもソ連時代を含め90年以降は、確認されていない。どこまで核実験停止の歴史を踏まえ、指示したかは疑問だ。
表明のタイミングも引っかかる。韓国で中国の習近平国家主席と会談する直前だった。核弾頭数を増やし、ミサイル開発を進める習氏をけん制する狙いがあったとも思われる。そうだとしても貿易などを巡る交渉を優位に進めるために核実験をちらつかせるような行為は見過ごせない。
ロシアのプーチン大統領が超長射程の原子力推進式巡航ミサイル「ブレベスニク」の発射実験を完了したと表明したことも、トランプ氏を刺激した可能性がある。
核爆発を伴うあらゆる核実験を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)が国連で採択されてから、来年30年を迎える。米国や中国などが批准していないため発効には至っていないものの、核実験のモラトリアム(凍結)として歯止めになってきた。両国は署名国であり、その事実を直視するべきだ。
トランプ氏のSNS投稿を受け、木原稔官房長官は記者会見で、日本は「核兵器のない世界の実現に向けて、CTBTの早期発効を含めて、現実的で実践的な取り組みを進める」と述べた。
高市早苗首相は、28日のトランプ氏との首脳会談で日米を「世界で最も偉大な同盟」と強調した。ならば、新たな核実験を取りやめるようトランプ氏に強く求め、CTBT批准を迫るべきだ。それでこそ、同盟を誇れよう。
今回のトランプ氏の指示に対し、ロシア側は「核実験のモラトリアムから離脱すれば、それに応じて行動する」とけん制した。米国を警戒する国が核実験を相次ぎ強行するような事態だけは、絶対に避けなければならない。
(2025年10月31日朝刊掲載)
                        
                    
		
                    
                SNSの中でトランプ氏は、他国の核強化を踏まえ「対等な立場」になる必要があると主張。中国やロシアへの対抗心を示し、実験に向けた作業は「直ちに始まる」とした。人類滅亡の脅威でしかない核兵器の開発を競い合う愚かさに気付くべきだ。被爆地の広島、長崎から「断じて容認できない」と反発の声が上がるのは当然である。
92年以降、米国は核弾頭の性能や安全性の評価、改良を臨界前核実験で進めた。核分裂の連鎖反応が続く「臨界」にならないよう少量のプルトニウムなどの核物質に高性能火薬の爆発で衝撃を与え、反応を調べる手法である。そこから先に踏み込むのなら、核政策の歴史的な転換となる。
トランプ氏は、他国が実験を続ける中で「やむを得ない選択だ」と説明した。だが今世紀に入って核爆発を伴う兵器実験をした国は北朝鮮しかない。中国は96年、ロシアもソ連時代を含め90年以降は、確認されていない。どこまで核実験停止の歴史を踏まえ、指示したかは疑問だ。
表明のタイミングも引っかかる。韓国で中国の習近平国家主席と会談する直前だった。核弾頭数を増やし、ミサイル開発を進める習氏をけん制する狙いがあったとも思われる。そうだとしても貿易などを巡る交渉を優位に進めるために核実験をちらつかせるような行為は見過ごせない。
ロシアのプーチン大統領が超長射程の原子力推進式巡航ミサイル「ブレベスニク」の発射実験を完了したと表明したことも、トランプ氏を刺激した可能性がある。
核爆発を伴うあらゆる核実験を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)が国連で採択されてから、来年30年を迎える。米国や中国などが批准していないため発効には至っていないものの、核実験のモラトリアム(凍結)として歯止めになってきた。両国は署名国であり、その事実を直視するべきだ。
トランプ氏のSNS投稿を受け、木原稔官房長官は記者会見で、日本は「核兵器のない世界の実現に向けて、CTBTの早期発効を含めて、現実的で実践的な取り組みを進める」と述べた。
高市早苗首相は、28日のトランプ氏との首脳会談で日米を「世界で最も偉大な同盟」と強調した。ならば、新たな核実験を取りやめるようトランプ氏に強く求め、CTBT批准を迫るべきだ。それでこそ、同盟を誇れよう。
今回のトランプ氏の指示に対し、ロシア側は「核実験のモラトリアムから離脱すれば、それに応じて行動する」とけん制した。米国を警戒する国が核実験を相次ぎ強行するような事態だけは、絶対に避けなければならない。
(2025年10月31日朝刊掲載)








