天風録 『「核の狂気」の火種』
25年10月31日
													 「核の狂気」と呼びたくなる光が映像の中の世界地図に明滅する。最初は1945年7月の米国によるトリニティ実験。2回目と3回目は広島、長崎への原爆投下。98年5月のパキスタンの核実験まで人類は2053回も核爆発を起こした▲それを時系列に光と電子音、国旗と数字だけで表現する。この春まで国立広島原爆死没者追悼平和祈念館の学芸員を務めた映像作家橋本公(いさお)さんの手による「1945―1998」である▲今は日本被団協のノーベル平和賞受賞を記念してノルウェーで展示され、ネットでも見ることができる。激しい点滅は冷戦下の軍拡競争、広がりは核兵器の拡散を示す。核に取りつかれた権力者の欲だけではない。光の下にいる核実験の被曝(ひばく)者の苦しみも浮かび上がる▲そんな時代に逆戻りしようというのか。トランプ米大統領がきのう、核兵器の実験を国防総省に指示したと明かした。中国の習近平国家主席との首脳会談に臨む直前に、それもSNSで▲実験が何を指すのかは判然としないが、全く容認できぬ。核のボタンを握る男が口にすれば、世界の緊張を高めることも分からないのか。アジア歴訪の最後に残したのは「核の狂気」の火種だ。
(2025年10月31日朝刊掲載)
                        
                    
		
                    
                (2025年10月31日朝刊掲載)








