社説 日本の核廃絶決議案 保有国への説得 根気強く
25年11月4日
													 国連総会の第1委員会(軍縮)が、核兵器廃絶を目指す日本提出の決議案を、145カ国の賛成で採択した。12月中に総会で正式に採択される見通しだ。
気になるのは、昨年は日本の決議案に賛成していた米国が棄権したことである。十分とはいえないまでも向き合ってきた核軍縮への態度を、転換する恐れがある。
トランプ米大統領は先月末、国防総省に「核兵器の実験を指示した」と交流サイト(SNS)で突如表明した。核計画を進める他国と「対等な立場」になる必要があるなどと主張。その後も「他の国々がやっているなら、われわれもやる」と述べている。
米国のライト・エネルギー長官は2日、米テレビ番組で、爆発を伴う実験の実施を否定したものの、超大国の核政策を巡る、世界の関心事である。トランプ氏の真意を巡って懸念が広がっている。そんな状況下での棄権という態度が、世界の緊張を高めることを米国は自覚すべきだ。
核兵器廃絶決議案は、日本が1994年以来毎年提出している。今回の決議案は、広島・長崎に原爆が投下されて80年の節目であることを意識し「核兵器のない世界」の実現という国際社会の共通目標を再確認する内容である。
新たに具体的提案を盛り込んでいるのは評価できよう。来年2月、米国とロシアの間の唯一の核軍縮合意「新戦略兵器削減条約(新START)」が失効する。それを念頭に、核兵器を多く保有する中国を含む3カ国で、核軍縮の枠組みを検討するよう要請している。
そのほかは昨年採択された決議とほぼ同内容といえる。核兵器を違法とする核兵器禁止条約に関しては「留意する」との言及にとどまる。極めて残念だ。包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効や、爆発を伴う核兵器実験を見合わせることも求めた。
茂木敏充外相は「広島・長崎への原爆投下から80年の節目の年に多くの国々の幅広い支持を得て採択されたことは大きな意義がある」との談話を発表した。国連加盟国の大半が「核兵器のない世界」を求める中、米国の棄権は、核超大国が核軍縮義務を果たす考えはないことを、改めて示したのではないか。
核保有五大国では英国だけが賛成。ロシアと中国が反対し、米国以外にはフランスが棄権した。米国以外は昨年と同じ投票行動だった。
軍縮会議日本政府代表部の市川とみ子大使は「米国を含む核兵器保有国と意思疎通を続けていく」と述べていた。根気強く説得してほしい。
核兵器使用の惨禍を体験した日本の政府がすべきなのは核兵器の非人道性を世界に発信し、「同盟国」米国に廃絶を迫ることだ。核拡散防止条約(NPT)の軍縮義務を果たすことなく、世界の危機を高めている核超大国のリーダーを、ノーベル平和賞に推薦している場合ではない。
政府はかねて非保有国と保有国の「橋渡し役」を公言してきた。トランプ政権にも決然とした態度で臨むべきだ。
(2025年11月4日朝刊掲載)
                        
                    
		
                    
                気になるのは、昨年は日本の決議案に賛成していた米国が棄権したことである。十分とはいえないまでも向き合ってきた核軍縮への態度を、転換する恐れがある。
トランプ米大統領は先月末、国防総省に「核兵器の実験を指示した」と交流サイト(SNS)で突如表明した。核計画を進める他国と「対等な立場」になる必要があるなどと主張。その後も「他の国々がやっているなら、われわれもやる」と述べている。
米国のライト・エネルギー長官は2日、米テレビ番組で、爆発を伴う実験の実施を否定したものの、超大国の核政策を巡る、世界の関心事である。トランプ氏の真意を巡って懸念が広がっている。そんな状況下での棄権という態度が、世界の緊張を高めることを米国は自覚すべきだ。
核兵器廃絶決議案は、日本が1994年以来毎年提出している。今回の決議案は、広島・長崎に原爆が投下されて80年の節目であることを意識し「核兵器のない世界」の実現という国際社会の共通目標を再確認する内容である。
新たに具体的提案を盛り込んでいるのは評価できよう。来年2月、米国とロシアの間の唯一の核軍縮合意「新戦略兵器削減条約(新START)」が失効する。それを念頭に、核兵器を多く保有する中国を含む3カ国で、核軍縮の枠組みを検討するよう要請している。
そのほかは昨年採択された決議とほぼ同内容といえる。核兵器を違法とする核兵器禁止条約に関しては「留意する」との言及にとどまる。極めて残念だ。包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効や、爆発を伴う核兵器実験を見合わせることも求めた。
茂木敏充外相は「広島・長崎への原爆投下から80年の節目の年に多くの国々の幅広い支持を得て採択されたことは大きな意義がある」との談話を発表した。国連加盟国の大半が「核兵器のない世界」を求める中、米国の棄権は、核超大国が核軍縮義務を果たす考えはないことを、改めて示したのではないか。
核保有五大国では英国だけが賛成。ロシアと中国が反対し、米国以外にはフランスが棄権した。米国以外は昨年と同じ投票行動だった。
軍縮会議日本政府代表部の市川とみ子大使は「米国を含む核兵器保有国と意思疎通を続けていく」と述べていた。根気強く説得してほしい。
核兵器使用の惨禍を体験した日本の政府がすべきなのは核兵器の非人道性を世界に発信し、「同盟国」米国に廃絶を迫ることだ。核拡散防止条約(NPT)の軍縮義務を果たすことなく、世界の危機を高めている核超大国のリーダーを、ノーベル平和賞に推薦している場合ではない。
政府はかねて非保有国と保有国の「橋渡し役」を公言してきた。トランプ政権にも決然とした態度で臨むべきだ。
(2025年11月4日朝刊掲載)








