トランプ氏の「核実験指示」 不必要で支離滅裂な方針 米政権元核政策担当 フランク・フォン・ヒッペル氏に聞く
25年11月3日
トランプ米大統領が核実験の再開を指示したと交流サイト(SNS)で表明し、さらに記者団に「何らかの実験をする」と発言した。どう読み取るべきか。クリントン政権で核実験を巡る政策に関わり、広島市内で開催中のパグウォッシュ会議世界大会に参加するフランク・フォン・ヒッペル氏(87)に聞いた。(金崎由美)
大統領はSNSで「戦争省(国防総省)に指示した」とした。だが同省が管轄するのはミサイル。核弾頭はエネルギー省傘下の核安全保障局(NNSA)の担当だ。この違いを知らなかったとみられるが、その後の発言によるとネバダ核実験場での核爆発実験を想定しているようだ。
米国は1992年から地下核実験をしていない。96年に包括的核実験禁止条約(CTBT)が国連で採択され、米国を含む核保有国は北朝鮮を除けば今世紀以降は核実験を自制している。大統領の発言は他の保有国が実験している可能性を示唆するが、事実誤認だ。
即時の再開も無理。実験にはそれなりに準備期間が要る。単なる爆発だけでも6カ月、データを本格的に取るなら36カ月ほど必要だろう。
米国はCTBTの締約国ではないが署名はしており、未発効であっても尊重する義務がある。地下核実験を再開してはならないし、技術的にも不要だ。米国は既に千回以上実施し、データの蓄積は圧倒的。実験再開は、ロシアや中国が後に続く口実を与える。CTBTに打撃を与え、核拡散防止条約(NPT)への影響も計り知れない。
私はクリントン政権で核政策の立案に関わり、地下核実験の停止と引き換えに、ロスアラモスなど国立研究所に核兵器の「安全性」「信頼性」を科学的に担保する最先端の実験や、核兵器の管理作業に予算を付けた。
これは核兵器の備蓄管理計画として今も続く。臨界前核実験も含まれる。核兵器管理の中で既存の核弾頭に事実上新たな能力を与えているとの批判もあるが、いずれにしろ核爆発実験は不要。研究所が予算と人員を割きたい分野ではない。
実験で漏えいする放射性物質の影響を受けるのは、核実験場に近いラスベガスを含むネバダ州の住民だ。強い反対運動が起きるだろう。米大統領の支離滅裂な方針が核軍拡競争や住民被害の引き金となってはならない。
英オックスフォード大で理論物理学の博士号取得。クリントン政権下の93~94年、ホワイトハウスの科学技術政策局次長。米プリンストン大名誉教授。祖父はノーベル物理学賞を受賞後、マンハッタン計画に加わり、原爆を無警告で使用しないよう進言したジェームズ・フランク氏。
(2025年11月3日朝刊掲載)
大統領はSNSで「戦争省(国防総省)に指示した」とした。だが同省が管轄するのはミサイル。核弾頭はエネルギー省傘下の核安全保障局(NNSA)の担当だ。この違いを知らなかったとみられるが、その後の発言によるとネバダ核実験場での核爆発実験を想定しているようだ。
米国は1992年から地下核実験をしていない。96年に包括的核実験禁止条約(CTBT)が国連で採択され、米国を含む核保有国は北朝鮮を除けば今世紀以降は核実験を自制している。大統領の発言は他の保有国が実験している可能性を示唆するが、事実誤認だ。
即時の再開も無理。実験にはそれなりに準備期間が要る。単なる爆発だけでも6カ月、データを本格的に取るなら36カ月ほど必要だろう。
米国はCTBTの締約国ではないが署名はしており、未発効であっても尊重する義務がある。地下核実験を再開してはならないし、技術的にも不要だ。米国は既に千回以上実施し、データの蓄積は圧倒的。実験再開は、ロシアや中国が後に続く口実を与える。CTBTに打撃を与え、核拡散防止条約(NPT)への影響も計り知れない。
私はクリントン政権で核政策の立案に関わり、地下核実験の停止と引き換えに、ロスアラモスなど国立研究所に核兵器の「安全性」「信頼性」を科学的に担保する最先端の実験や、核兵器の管理作業に予算を付けた。
これは核兵器の備蓄管理計画として今も続く。臨界前核実験も含まれる。核兵器管理の中で既存の核弾頭に事実上新たな能力を与えているとの批判もあるが、いずれにしろ核爆発実験は不要。研究所が予算と人員を割きたい分野ではない。
実験で漏えいする放射性物質の影響を受けるのは、核実験場に近いラスベガスを含むネバダ州の住民だ。強い反対運動が起きるだろう。米大統領の支離滅裂な方針が核軍拡競争や住民被害の引き金となってはならない。
英オックスフォード大で理論物理学の博士号取得。クリントン政権下の93~94年、ホワイトハウスの科学技術政策局次長。米プリンストン大名誉教授。祖父はノーベル物理学賞を受賞後、マンハッタン計画に加わり、原爆を無警告で使用しないよう進言したジェームズ・フランク氏。
(2025年11月3日朝刊掲載)








