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原爆症訴訟 全員救済へ 敗訴者に「解決金」

■記者 岡田浩平

 原爆症認定の集団訴訟で政府は5日、原告を全員救済する方針を固めた。一審で勝った原告を認定し、敗訴原告も議員立法で救済する方向で原告側と最終調整している。認定制度の改正について国と被爆者の協議機関も設ける。麻生太郎首相が6日、広島市で被爆者団体に表明する。原告側もほぼ合意しており、国が19連敗した6年越しの訴訟は一括解決へ向かう見通しだ。

 救済策は、原告306人のうち国の新基準で認定されていない110人について(1)一審判決が原爆症と認めた勝訴原告は認定(2)議員立法に委ねる形で基金を設け、敗訴者に何らかの形で事実上の解決金を支払う(3)厚生労働相を座長とする認定制度見直しの協議機関を設ける―の3点が柱。

 舛添要一厚生労働相は5日夜、麻生首相と広島市内のホテルで会談。終了後、「全面解決の方向だ。原告と心を一つにして解決を図ってきた中で総理の決断をいただいた」と述べ、麻生首相と全員救済で最終合意したことを明らかにした。

 政府と原告側は6日にも文書を交わす見込み。国が19連敗した集団訴訟について、謝罪に近い政府声明も出される。解決策が確定すれば、日本被団協や弁護団は、認定や救済を前提にした訴訟の取り下げを各原告と協議する。

 日本被団協の代表委員を務める広島県被団協の坪井直理事長(84)は「原爆の日を前に政府が思い切った判断をしてくれた。これ以上裁判を長引かせるべきではない」と政府の方針を歓迎している。

 原爆症認定は長年、被爆者の約1%にとどまっていた。日本被団協は国が原爆被害を過小評価しており、個別の訴訟に勝っても認定制度の改善につながらないとして集団訴訟を提唱。2003年4月から全国17地裁で提訴した。

 2008年4月に基準を緩和後、認定件数は激増した。そうした中でも国が認定しない原告が勝訴する判決が続き、国はこの3日の熊本地裁判決まで5高裁を含め19連敗した。初提訴から6年間で、原告68人が亡くなっている。

原爆症認定
 被爆者援護法に基づく制度。病気と原爆放射線との関連(放射線起因性)▽治療の必要性(要医療性)が認められれば厚労相が認定し、医療特別手当(月額約13万7千円)を支給する。審査は厚労省の被爆者医療分科会が当たる。集団訴訟の原告が却下された当時の基準は推定被曝(ひばく)線量に年齢などを加味する「原因確率」を最大の根拠としてきたが、2008年4月からの新基準では被爆状況など一定条件を満たせばがんなど五つの病気を「積極認定」し、ほかの病気は個別判断で「総合認定」している。6月に再緩和され積極認定に肝臓と甲状腺の病気が加わった。

(2009年8月6日朝刊掲載)

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