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社説・コラム

社説 原子力潜水艦 核拡散につながらないか

 トランプ米大統領が、対米投資の見返りとして韓国が原子力潜水艦を建造することを承認した。韓国はかねて保有を模索していた。米国は原潜保有を目指す北朝鮮や海洋進出を活発化させる中国をにらみ、軍事面で韓国の役割を拡大させたいのだろう。

 米韓の原子力協定では、米国が提供する核燃料を軍事目的で使用することを認めていない。しかし原潜の建造を承認すれば、なし崩しになりかねない。歴代の米政権が、核拡散の懸念があるとして否定してきた政策の転換である。言語道断だ。

 核拡散防止条約(NPT)体制に反する上、東アジアの軍拡競争にも拍車をかけ、安全保障環境に大きな影響を与えかねない。トランプ氏が交流サイト(SNS)で承認を発表した後、中国は「韓米両国が核不拡散に関する義務を適切に履行するように望む」と強調していた。

 原潜は通常、核兵器を含むミサイルを搭載して潜航させるのが目的だ。米国とロシア、中国、英国、フランスなど核保有国しか持っていない。ただ、オーストラリアは米英豪の安全保障枠組み(AUKUS)を通じ、米国の原潜配備を計画している。

 トランプ氏の思惑はアジア太平洋地域での米軍の負担軽減にあるようだ。さらに米東部の造船所で韓国に原潜を建造させれば、地元の雇用増につながる。与野党の勢力がせめぎ合う米東部で、共和党への支持を広げたい政治的動機もあるらしい。米国の都合でいたずらに東アジアの緊張を高めることは許されない。

 日本はいさめるべきではないか。ところが高市早苗政権は原潜保有に前向きである。日本維新の会との間で交わした連立政権合意書に「次世代の動力」を活用した潜水艦の保有を推進すると明記した。

 小泉進次郎防衛相は記者会見で、原潜を含め「あらゆる選択肢を排除しない」との見解を示した。さらに民放のテレビ番組では、「周りの国々は皆、原潜を持つ」として、原潜導入の必要性に言及している。周りが持つから持つというのでは、際限ない軍拡競争に陥る。日本まで原潜を導入すれば、中国、北朝鮮を過度に刺激することになろう。

 日本は「平和主義」を掲げる。なぜ非核化に向けた対話を通じた緊張緩和ではなく、逆の道を選ぶのだろうか。原潜導入は、「専守防衛」を逸脱する懸念も強い。

 私たちの暮らしにも無関係ではない。原潜の導入には膨大な費用がかかる。高市政権はすでに、社会保障の給付見直しや防衛費増の考えを示している。国民の負担が増え、生活に深刻な影響を及ぼす恐れがある。

 そもそも日本の原潜保有は、原子力の「平和利用」を定めた原子力基本法に反している。歴代政権は、自衛艦の推進力としての原子力利用は認められないとの見解を示してきた。

 日本は被爆国として、NPT体制を重んじ、核軍縮・不拡散にも力を入れてきたはずである。原潜保有への安易な追従は、慎むべきである。

(2025年11月8日朝刊掲載)

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