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原爆写真に学ぶ 東京の高校生 故尾糠さん三男が寄贈 「資料の会」が支え 平和と戦争 シンポ開催へ

 広島の被爆の惨状を撮影した故尾糠(おぬか)政美さんの写真を基に、東京の高校生が戦争や平和への学びを深めている。寄贈を受けた聖(せい)学院中高(北区)の教員や遺族たちが結成した「尾糠資料の会」が支える。戦後80年の節目に、生徒たちは平和や戦争への理解を深めるイベントを都内で開く。(宮野史康)

 聖学院中高の図書館で今月上旬、同校や駒込高(文京区)東京立正高(杉並区)の生徒たちが本番の流れや各校の発表内容を確認した。会場には尾糠さんの写真も展示する。準備を通じて写真との縁を知った聖学院高2年の中島瑠香(るか)さん(16)は「衝撃的だった。人の死が重く、戦争はどれだけ駄目なものか伝わる」と受け止める。

 背中が焼けただれた女性、全身やけどの男性…。自らも被爆し、翌日からむごたらしい被害をフィルムに収めた尾糠さんは宇品町(現広島市南区)に拠点を置いた陸軍船舶司令部の写真班員だった。当時23歳。「写すときに視線が合うんです」。命じられた撮影の苦しみを後に語った。2011年に89歳で亡くなった。

 三男で学習塾経営の清司(きよし)さん(63)=川崎市=は19年、交流サイト(SNS)で平和教育に熱心な聖学院中高を知り、写真や書籍など父の遺品を寄贈した。これをきっかけに同校や駒込高の教員や清司さんが「尾糠資料の会」をつくり、資料を生かした教育を考えてきた。

 写真や尾糠さんが載る新聞記事を校内に展示すると、「知ることが大切」との思いが生徒に育ったという。新型コロナウイルス禍が落ち着いた数年前からは自主的に調べて学ぶ探究学習を促し、学校の垣根を越えて戦時下の食事や兵士の装備を体験する催しを企画した。尾糠さんの被爆当時の足取りを清司さんが伝える講演会も開いた。

 今回のイベント「戦後80年、高校生が考える平和と戦争シンポジウム」は23日、千代田区である。戦時中の暮らしについて発表する駒込高2年大沢穂花(ほのか)さん(17)は「戦争の記憶を受け継ぎたいと思っている同世代はいる。つながるきっかけにしたい」と意気込む。

 そんな若者の姿を見て、清司さんは「生徒がさまざまな事実を調べ、伝える姿に感動する。父の写真が役立っている」と実感する。いずれは自らも平和教育にさらに力を注ぎたいと考えている。

(2025年11月17日朝刊掲載)

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