被爆者の訴え ないがしろ
25年11月15日
■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美
非核三原則は日本の国是といわれるが、その存在を支えてきたのは広島と長崎の悲惨な体験に基づく被爆者と市民の訴えである。それが今、米国の核抑止力にとって足かせだとして見直されかねない事態となっている。被爆者の願いがないがしろにされる。なし崩し的な大転換を許してはならない。
1945年末までの4カ月余に広島で14万人、長崎では7万人が原爆の犠牲になったと推定される。大量の爆弾ではなく、たった1発で。その9年後に米軍が実験した水爆の威力は、広島原爆の千倍に達した。現在9カ国が1万2千発余を保有する。「抑止」とはならず、実際に使われる可能性が冷戦後で最も高いといわれる。偶発的な使用の危険も指摘される。
昨年12月、被爆者団体の全国組織である日本被団協がノーベル平和賞を受けた。つらい体験を語り続けることで「核使用は道徳上許されない」という規範意識を指す「核のタブー」の確立に貢献したと高く評価された。
だが高市早苗首相は、特に「持ち込ませず」の見直しが米国の核抑止力を強化し、それが日本の安全を担保すると考えているようだ。被爆国のトップ自らが「核のタブー」を揺るがせてはいないか。
今月10日、高市首相は非核三原則に関する中国新聞の質問に「政府としては、政策上の方針として堅持している」と書面で回答した。だが翌日の衆院予算委員会では明言を避けた。防衛費増や原子力潜水艦の導入への動きを加速させている上、中国の武力侵攻を伴う「台湾有事」を巡り、集団的自衛権の行使を認める「存立危機事態」になり得ると答弁している。「核の持ち込み」も念頭にあるとなれば、東アジアの緊張と軍拡競争を一気に高めかねない。
核兵器を米軍と自衛隊が一部で共同運用する「核共有」を求める国内議論は勢いづくだろう。石破茂前首相らの持論でもある。核不拡散体制への影響も必至だ。
米国の「核の傘」に依存する日本の安全保障政策は、核兵器廃絶を阻む最大の壁。その現実が改めて突き付けられた。被爆地は、国連などで世界に廃絶を訴える以上に、被爆国内での深刻な課題と対峙(たいじ)しなければならない。
(2025年11月15日朝刊掲載)
非核三原則は日本の国是といわれるが、その存在を支えてきたのは広島と長崎の悲惨な体験に基づく被爆者と市民の訴えである。それが今、米国の核抑止力にとって足かせだとして見直されかねない事態となっている。被爆者の願いがないがしろにされる。なし崩し的な大転換を許してはならない。
1945年末までの4カ月余に広島で14万人、長崎では7万人が原爆の犠牲になったと推定される。大量の爆弾ではなく、たった1発で。その9年後に米軍が実験した水爆の威力は、広島原爆の千倍に達した。現在9カ国が1万2千発余を保有する。「抑止」とはならず、実際に使われる可能性が冷戦後で最も高いといわれる。偶発的な使用の危険も指摘される。
昨年12月、被爆者団体の全国組織である日本被団協がノーベル平和賞を受けた。つらい体験を語り続けることで「核使用は道徳上許されない」という規範意識を指す「核のタブー」の確立に貢献したと高く評価された。
だが高市早苗首相は、特に「持ち込ませず」の見直しが米国の核抑止力を強化し、それが日本の安全を担保すると考えているようだ。被爆国のトップ自らが「核のタブー」を揺るがせてはいないか。
今月10日、高市首相は非核三原則に関する中国新聞の質問に「政府としては、政策上の方針として堅持している」と書面で回答した。だが翌日の衆院予算委員会では明言を避けた。防衛費増や原子力潜水艦の導入への動きを加速させている上、中国の武力侵攻を伴う「台湾有事」を巡り、集団的自衛権の行使を認める「存立危機事態」になり得ると答弁している。「核の持ち込み」も念頭にあるとなれば、東アジアの緊張と軍拡競争を一気に高めかねない。
核兵器を米軍と自衛隊が一部で共同運用する「核共有」を求める国内議論は勢いづくだろう。石破茂前首相らの持論でもある。核不拡散体制への影響も必至だ。
米国の「核の傘」に依存する日本の安全保障政策は、核兵器廃絶を阻む最大の壁。その現実が改めて突き付けられた。被爆地は、国連などで世界に廃絶を訴える以上に、被爆国内での深刻な課題と対峙(たいじ)しなければならない。
(2025年11月15日朝刊掲載)








