国是 非核三原則 ICAN国際運営委員 川崎哲さん(56) 世界への危険な発信
25年11月18日
非核三原則の見直しは高市早苗首相の持論だ。自著でも「持たず、つくらず、持ち込ませず」のうち、「持ち込ませず」が有事の際に「邪魔になる」と主張している。ただ就任早々、見直しの検討に入るとは。党内タカ派や国内支持層へのアピールかもしれないが、憤りを感じざるを得ない。
三原則の重みを分かっているのだろうか。先の大戦での広島や長崎、沖縄の犠牲の反省に立ち、成立した歴史的経緯がある。沖縄返還に際し、明確な非核を願う世論が時の佐藤栄作首相の背を押し、全会一致の国会決議を経て国是となった。
軍拡連鎖の恐れ
被爆国日本が見直しに踏み切っただけで、国際社会は「ついに日本も非核の旗を降ろした」と受け止める。米国の核抑止力への依存を強める近年、私は世界の非核保有国から「日本も将来、核武装するのでは」との懸念を聞いてきた。今回の検討は軍拡の連鎖を広げ、核保有の動きすら招きかねない。極めて危険なメッセージになる。
「持ち込ませず」を巡り、政府は過去に米国の核搭載船の寄港を黙認してきた。実際には「二・五原則」とも言える実態がある。米政府は冷戦終結後、一度は艦船から戦術核兵器を撤去すると宣言したが、トランプ政権は海洋発射型の核巡航ミサイルの開発を進めている。核ミサイルを積んだ米軍艦が近い将来、日本に来るかもしれない。それに備えた「検討」なのだろうか。
だが、ひとたび寄港を認めれば陸上持ち込みや配備へつながり、他国からの攻撃リスクが増す恐れがある。ロシアによるウクライナ侵攻後、米国の核を共同運用する「核共有」論が浮上した2022年にも、自民党は安全保障上の利はないと確認し、当時の岸田文雄首相が三原則堅持を表明した。広島、長崎の惨禍を知る日本にはむしろ、「核ミサイルの開発などやめるべきだ」と米国を制止する役目がある。
禁止条約参加を
世界には核に依存しない安全保障を実践している国が多い。国連加盟の半数を超える99の国と地域が核兵器禁止条約に署名した。日本が取るべき道は禁止条約に参加することだ。政府は「核抑止」を唱えて戦争の危険をあおるのではなく、冷静な議論で平和外交を主導してほしい。三原則をベースに東アジアの軍縮外交の先頭に立ち、核拡散防止条約(NPT)に基づく核軍縮・不拡散に力を入れるべきだ。(樋口浩二)
かわさき・あきら
東京都生まれ。非政府組織(NGO)ピースボートのスタッフなどを経て、2010年からNGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN=アイキャン)の運営に参加。17年のICANノーベル平和賞受賞に貢献した。ピースボート共同代表も務める。
(2025年11月18日朝刊掲載)
三原則の重みを分かっているのだろうか。先の大戦での広島や長崎、沖縄の犠牲の反省に立ち、成立した歴史的経緯がある。沖縄返還に際し、明確な非核を願う世論が時の佐藤栄作首相の背を押し、全会一致の国会決議を経て国是となった。
軍拡連鎖の恐れ
被爆国日本が見直しに踏み切っただけで、国際社会は「ついに日本も非核の旗を降ろした」と受け止める。米国の核抑止力への依存を強める近年、私は世界の非核保有国から「日本も将来、核武装するのでは」との懸念を聞いてきた。今回の検討は軍拡の連鎖を広げ、核保有の動きすら招きかねない。極めて危険なメッセージになる。
「持ち込ませず」を巡り、政府は過去に米国の核搭載船の寄港を黙認してきた。実際には「二・五原則」とも言える実態がある。米政府は冷戦終結後、一度は艦船から戦術核兵器を撤去すると宣言したが、トランプ政権は海洋発射型の核巡航ミサイルの開発を進めている。核ミサイルを積んだ米軍艦が近い将来、日本に来るかもしれない。それに備えた「検討」なのだろうか。
だが、ひとたび寄港を認めれば陸上持ち込みや配備へつながり、他国からの攻撃リスクが増す恐れがある。ロシアによるウクライナ侵攻後、米国の核を共同運用する「核共有」論が浮上した2022年にも、自民党は安全保障上の利はないと確認し、当時の岸田文雄首相が三原則堅持を表明した。広島、長崎の惨禍を知る日本にはむしろ、「核ミサイルの開発などやめるべきだ」と米国を制止する役目がある。
禁止条約参加を
世界には核に依存しない安全保障を実践している国が多い。国連加盟の半数を超える99の国と地域が核兵器禁止条約に署名した。日本が取るべき道は禁止条約に参加することだ。政府は「核抑止」を唱えて戦争の危険をあおるのではなく、冷静な議論で平和外交を主導してほしい。三原則をベースに東アジアの軍縮外交の先頭に立ち、核拡散防止条約(NPT)に基づく核軍縮・不拡散に力を入れるべきだ。(樋口浩二)
かわさき・あきら
東京都生まれ。非政府組織(NGO)ピースボートのスタッフなどを経て、2010年からNGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN=アイキャン)の運営に参加。17年のICANノーベル平和賞受賞に貢献した。ピースボート共同代表も務める。
(2025年11月18日朝刊掲載)








