×

ニュース

国是 非核三原則 高市首相「堅持」明言せず 安保3文書改定「持ち込ませず」見直し検討

支持率を盾に強気貫くか

 自民党が近く始める安全保障関連3文書の改定に向けた協議で、非核三原則の見直しが論点の一つに挙がる背景には、高市早苗首相の強い意思が見える。かねて、日本に核兵器を「持ち込ませず」とした原則が米国による核抑止力を弱めかねないと訴える。就任から1カ月足らず。1971年の国会決議以降、歴代首相がとる「堅持」の姿勢が揺らいでいる。(中川雅晴)

 11日の衆院予算委員会で、来年の改定を目指す3文書を巡り、首相は国是である非核三原則の「持たず、つくらず、持ち込ませず」を堅持するかと問われたが、するともしないとも明言しなかった。3文書に書き込むかは「書きぶりを私から申し上げる段階ではない」と濁した。

 前日の10日、首相就任に伴う中国新聞の質問への文書回答で、非核三原則について「政府としては、政策上の方針として堅持している」と述べている。現段階の政府方針は「堅持」だと説明しつつ、高市政権としては踏襲するか否か、明確には読みとれない。

「邪魔になる」

 高市氏はこれまで党や内閣の要職にいる時も含めて「持ち込ませず」の見直しに繰り返し言及してきた。党政調会長だった2022年3月、見直し議論を要求。著書では経済安全保障担当相だった22年末、閣議決定した3文書の国家安全保障戦略に非核三原則の堅持が明記された点に反対だったと明かす。「守るのは国民の命か、非核三原則かという究極の事態に至った場合、『堅持する』の文言が邪魔になる」とまで踏み込んでいる。

 昨年9月の自民党総裁選に立候補した際は「議論を封じてはならない」と訴えた。中国新聞などのインタビューに対して「本当に有事になって米国の核をもって抑止力にするなら(このままでは)核を搭載した米国の戦艦が来て日本で給油できない」と強調。抑止力の実効性に影響しかねないと理由を挙げた。

 三原則を巡っては、米国による「核の傘」に頼る防衛政策と矛盾するとの指摘は、かねてある。周辺国の安全保障環境の変化を踏まえ、この矛盾を解消したいとの高市氏の思惑が透ける。

 しかし歴代政権は日本政府の意思として非核三原則を国是に据え、時の首相は8月にある広島、長崎の原爆の日の式典あいさつで触れてきた。

波長合う維新

 被爆80年の今年は、石破茂首相が広島の平和記念式典で「非核三原則を堅持しながら核兵器のない世界に向けた国際社会の取り組みを主導することは唯一の戦争被爆国であるわが国の使命です」と、被爆者や日本国民たちに誓った。

 わずか約3カ月半後、首相に就任した高市氏が少数与党ながら持論を押し出す後ろ盾は、日本維新の会との新たな連立だ。安全保障を巡る国家観について「首相と維新の波長は合う」(自民党関係者)との見方がある。安全保障政策でブレーキ役だった公明党は連立を離脱。内閣支持率も高水準で推移し、「首相が強気に出ている」(同)との声が漏れる。

<非核三原則と高市首相の発言>

1967年12月
 佐藤栄作首相が国会で「(核兵器を)保有しない、製造もしない、持ち込まないという三原則が私に課せられた責任だ」と表明

  71年11月
 衆院が非核三原則の順守と、翌72年の沖縄返還後も核兵器を持ち込ませない措置を求める決議を採択

2010年3月
 民主党政権の岡田克也外相が国会で「核の一時的寄港を認めないと日本の安全が守れない事態が発生したら、その時の政権が命運をかけて決断」と答弁

  22年3月
 自民党政調会長の高市氏が「持ち込ませず」の見直しに意欲

  24年8月
 高市氏が出版した著書で「守るのは国民の命か、非核三原則かという究極の事態に至った場合、『堅持する』の文言が邪魔になる」と記述

  25年10月
 高市氏が首相就任

   同年11月
 高市首相は中国新聞への文書回答で非核三原則に関し「政府としては、政策上の方針として堅持している」。国会で改定を目指す安保関連3文書に明記するかを問われて「書きぶりを私から申し上げる段階ではない」

(2025年11月19日朝刊掲載)

年別アーカイブ