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写真が語る被爆前の広島陸軍病院 元軍医の長男15枚を提供 

■記者 水川恭輔

 旧広島陸軍病院の戦前の様子を紹介する初の写真展が6日、広島市中区基町の同病院跡地の原爆慰霊碑前であった。遺族たちは原爆の犠牲となった約1600人の職員、患者の生前の姿をしのんでいた。資料を収集した元軍医の遺族は、写真を解説する自作の冊子を配った。

 外科手術に臨む医師、患者のリハビリ、緑豊かな庭園…。1930年代の写真15点が並ぶ。犠牲者の遺族、かつての同僚、地域住民たちが、貴重な資料に目を凝らしていた。

 爆心地から約800メートルの病棟で被爆した元軍医工藤功造さんの長男で医師の恵康(よしみち)さん=京都府=が写真を集めた。体験を語らぬまま2006年に91歳で逝った父の「あの日」に迫るためだった。

 複写は、慰霊碑を清掃している地元の佐久間ハツ子さん(82)へ昨年寄贈。佐久間さんが写真展を企画した。

 恵康さんはこの日、A4判15ページの冊子を会場で配った。複写や解説文を掲載している。恵康さんは「調べるうちに、多くの職員や患者が犠牲になったことを痛感した。父と同じく、人の命を救う医師として原爆は絶対に許せない」と話す。

 訪れた大阪府豊能町の渡辺エミ子さん(79)は当時、看護師をしていた4歳上の姉を亡くした。初めて見る病棟の写真を前に「やさしい姉が、懸命に働く姿が思い起こせる」と目をうるませていた。

(2009年8月6日夕刊掲載)

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