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毒ガス兵器?引き揚げ 大久野島沖 23点を分析へ 発見から7ヵ月

■記者 毒ガス問題取材班

 旧日本軍の毒ガス工場があった竹原市大久野島沖の海底に毒ガス兵器とみられる不審物が放置されてきた問題で、環境省は12日、発見から約7カ月を経て現場海域から不審物23点を引き揚げた。専門家は、毒ガス兵器の一種「あか筒」や発煙筒などの可能性があると指摘。同省は回収した不審物の特定を急ぐ。

 作業は、環境省が委託した民間業者が実施した。島北側約60メートルの海上に船を止め、30メートル四方の水域で、潜水士2人が、水深20メートル付近に沈んでいる不審物を回収した。円筒の金属塊が19点、腐食して形が崩れたものが4点。形が崩れていない円筒は直径約4.5~6.5センチで、長さは15~20センチ。表面はさびで腐食していた。

 毒ガス弾などの専門家でつくる環境省検討会元委員の上野優さん(73)が23点を確認し(1)くしゃみ性ガスが発生するあか筒(2)発煙筒(3)催涙筒-の3種類の可能性があるとした。あか筒は長さ約17センチ以上とされ、大きさから可能性があるのは3点とみられる。また、上野さんは「内容物の分析が必要だが、23点の多くは発煙筒ではないか」との見方も示した。

 環境省は今後、外部機関に不審物の分析を依頼する。分析には1カ月以上かかる見通し。視察した斉藤鉄夫環境相は「地域の不安がなくなるよう全力を傾ける」と述べた。

 一方、今回作業したエリアの周辺で、中国新聞の潜水取材で別の約15個の不審物が見つかった。環境省は、分析結果をみて対応を検討するという。

 不審物は1月19日、環境省から送水管敷設ルートの海底調査で請け負った業者が発見した。竹原市などが早期の調査、撤去を求めたが、政府が環境省を中心に対応することを決めたのは発見から5カ月近くたった6月に入ってからだった。

<解説>対応ルール 不備残る

■記者 城戸収

 大久野島沖の海底で放置されていた不審物は、発見から約7カ月を経て引き揚げられた。だが、問題が解決したわけではない。水域で毒ガス弾の可能性がある不審物が見つかった場合、どこの省庁が対応するのか。引き揚げ方針の決定まで5カ月近くの「空白」を生んだ法規定の不備は、積み残されたままだ。

 旧日本軍の化学兵器への対応に法規定はなく、2003年の閣議決定をよりどころにする。ただ陸上と違い、水域での発見は「内閣官房を調整役に省庁が連携する」とあいまいな内容にとどまる。

 今回も、不安視する地元の広島県や竹原市、住民たちの思いをよそに、閣議決定を盾に動かぬ関係省庁の姿が浮き彫りになった。  環境省がまとめた旧日本軍の毒ガス弾などの全国調査では、廃棄、埋設された毒ガス弾などの情報があるのは138カ所。このうち水域分は29カ所に上る。今回のように不審物が、いつ姿を現すかは分からない。明確なルールをつくり、迅速に対応するのは国の責務だ。遺棄毒ガス兵器の戦後処理は、まだ足元に残っている。

大久野島の毒ガス工場
 竹原市忠海町の沖合3キロに浮かぶ大久野島に1929年、旧陸軍造兵廠(しょう)火工廠忠海兵器製造所として開所した。(1)イペリットなどびらん性の「きい」(2)催涙性の「みどり」(3)ヒ素を原料にするくしゃみ性の「あか」―などを製造した。米太平洋陸軍の資料によると、総生産量は原液状態で6616トンに上る。現在は島内に住民はおらず、宿泊施設の休暇村大久野島や毒ガス資料館がある。

(2009年8月13日朝刊掲載)

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