核廃絶の具体策議論 IPPNW 広島でアジア会議開幕
09年8月25日
■記者 林淳一郎
核戦争防止国際医師会議(IPPNW)北アジア・南アジア合同地域会議が22日、広島市中区の広島国際会議場で始まった。核兵器を保有する中国、インド、パキスタンなど海外7カ国と国内の医師や医学生ら合わせて約40人が参加。市民ら約200人を交えたシンポジウムもあり、核兵器廃絶への具体策について意見交換した。
総会では各国の取り組みを報告。「核兵器をゼロにする期限を設けた運動を展開するべきだ」との提案もあった。続く基調講演でNPO法人「ピースデポ」(横浜市)の梅林宏道特別顧問は、廃絶へのアプローチとして核兵器禁止条約や非核兵器地帯の拡大を提唱した。
核問題の専門家ら5人によるシンポジウムで、東京大公共政策大学院の鈴木達治郎客員教授は核拡散を防ぐ多国間の核燃料管理方法を説明。モンゴルのエンクサイハン駐オーストリア大使は核兵器の先制不使用宣言の意義を説き、「日本など『核の傘』の下にある国が、核保有国の考えを変えるよう行動してほしい」と訴えかけた。
広島市立大広島平和研究所の浅井基文所長は「米国のオバマ大統領をさらに廃絶の側へ引き寄せるエネルギーをつくりだすことが急務だ」と市民社会の役割を指摘した。
会議はIPPNW日本支部が主催し、南アジアとの合同開催は初めて。北朝鮮と韓国は欠席した。23日は南アジアの地域課題をめぐる討議があり、「広島宣言」を採択して閉会する。
(2009年8月23日朝刊掲載)
■記者 東海右佐衛門直柄
核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の北アジア・南アジア合同地域会議は23日、広島市中区の広島国際会議場で講演や医学生の活動報告があった。続く閉会式で、核兵器禁止条約や北東アジア非核兵器地帯化に向けた取り組みを各国政府に求める「広島宣言」を採択。2日間の日程を終えて閉幕した。
宣言は、碓井静照IPPNW日本支部長が読み上げ、拍手で承認した。核兵器の全面禁止条約のほか、包括的核実験禁止条約(CTBT)など核軍縮にかかわる多国間条約の重要性を指摘。非核兵器地帯については北東アジアの早期実現と南アジアでの取り組みを促した。
原子力の平和利用については「健康への安全性と環境の保護」など3点の強化を求めた。このほか、平和市長会議が提唱している「ヒロシマ・ナガサキ議定書」を支持。オバマ米大統領の被爆地訪問は廃絶への「新しい一歩」と位置付け、広島などでの招聘(しょうへい)の動きに賛同する姿勢を示した。
今回の地域会議は南北アジアの初の合同開催。閉会後に記者会見したインドのリブタール・シン・チャウラ支部長は「核兵器廃絶を訴える運動を続ける。広島でその思いを新たにした」と述べた。
■記者 林淳一郎
南北アジアが初めて被爆地で合同開催した核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の地域会議は、「核兵器廃絶、今こそ好機!」のテーマに沿い、廃絶に向けた提案や決意表明が相次いだ。しかし、その「好機」を生かした具体的な行動については、もう一歩踏み込んでほしかった。
初日のシンポジウムで、モンゴルのエンクサイハン駐オーストリア大使は「核兵器のない世界」を唱えるオバマ米大統領の発言を評価しつつ、こう強調した。「希望を抱くだけではなく、私たち自身が責任と決意を持って行動する必要がある」
米国とロシアの新たな核軍縮条約、米国の核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」は年内にもまとまる見通し。来年春には核拡散防止条約(NPT)再検討会議もある。核兵器廃絶の行方を左右する岐路に差し掛かった今こそ、市民の視点で核兵器に「ノー」を突き付け、各国政府に強く迫るときだ。その意味で、放射線被害など核の脅威を知る医師の影響力は甚大だ。
東西冷戦期の1980年、IPPNWは米国と旧ソ連の医師の対話から生まれた。その2年後に被爆国日本でも支部を設立。現在、58カ国約10万人が名を連ねる。
今回の会議では5月に核実験を強行した北朝鮮、韓国は不参加。北アジアの主役を欠く一方、南アジアの核保有国インド、パキスタンが参加した。初めて被爆地を訪れたという両国の医師も少なくなかった。
「ヒロシマ、ナガサキを繰り返してはならない。それは専門家たる医療人の責務」。閉会後の記者会見で日本支部長の碓井静照広島県医師会長は語った。核兵器の危うさを生命の尊さから説く―。被爆者の生の声に、医の視点が加わることが、「好機」の推進力になりうる。
(2009年8月24日朝刊掲載)
本年4月、アメリカのオバマ大統領がプラハで「核兵器のない世界を目指して具体的な方策をとる」と演説して以来、核兵器廃絶に関する世界の関心と希望が高まっている。この好機にIPPNWはここ広島―64年前に世界最初の原爆被災を受けた都市―において北アジア・南アジア合同地域会議を開催し、人間の健康と地球環境を護るためには核兵器の廃絶が絶対的な必要条件であることを改めて確認した。
核兵器のない世界の実現のためには、確固たる検証システムに裏打ちされた「核兵器禁止条約」のような包括的枠組みが必要である。私たちは核不拡散条約(NPT)、包括的核実験禁止条約(CTBT),兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)、二国間あるいは多国間の核兵器削減条約などの核軍縮に関わる重要な諸条約を支持する。これらの条約は明確な期限を付けて「核兵器のない世界」を実現するために重要であるが、核兵器廃絶が実現するまでの間は核兵器を管理するためにも必要である。私たちIPPNWの会員は政策決定者との対話を通じて、また他のNGOと協力して核兵器廃絶を訴えてきた。私たちは平和市長会議が提案した「ヒロシマ・ナガサキ議定書」を強く支持する。また、核不拡散・核軍縮国際委員会(ICNND)が年末までに出す提言のなかに、核兵器廃絶の明確な期限と具体的な方策が含まれるよう要請する。
非核兵器地帯条約は、核兵器のない世界が実現するまでの間、核兵器に依存する安全保障の枠組みから脱却し、対話による共生への道を開くものである。北東アジアについては既に現実的な非核兵器地帯構想が提案されている。最近の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核実験は、この構想に冷や水を浴びせるものであるが、非核化のための協議の枠組みは未だ残っている。私たちは北東アジア非核兵器地帯の早期の実現を強く要望する。私たちは、南アジア地域の政府によっても同様の取組がなされることを歓迎する。
温室効果ガス排出の削減のために世界の原子力発電計画が急増していることに鑑み、原子力の民生利用に際して「人間の健康への安全性と環境の保護」、「核分裂性物質と機微な技術の拡散の防御」、「軍事利用につながらないための保障措置」の強化を要求する。さらに、核燃料の濃縮や再処理が、兵器級核分裂性物質の生産につながることを防止するための枠組みや技術の開発が重要である。
核兵器廃絶への道は、与えられるものではなく、努力して掴みとらなくてはならない。オバマ大統領の広島訪問、広島への第一歩こそが、核兵器廃絶への新しい道である。
私たちは今、核兵器廃絶への道と、核兵器が際限なく拡散する道の岐路に立っている。私たちは、世界中の人々と政府が核兵器廃絶の実現のために力を合わせるよう呼びかける。
*英文を正文とする。
核戦争防止国際医師会議(IPPNW)北アジア・南アジア合同地域会議が22日、広島市中区の広島国際会議場で始まった。核兵器を保有する中国、インド、パキスタンなど海外7カ国と国内の医師や医学生ら合わせて約40人が参加。市民ら約200人を交えたシンポジウムもあり、核兵器廃絶への具体策について意見交換した。
総会では各国の取り組みを報告。「核兵器をゼロにする期限を設けた運動を展開するべきだ」との提案もあった。続く基調講演でNPO法人「ピースデポ」(横浜市)の梅林宏道特別顧問は、廃絶へのアプローチとして核兵器禁止条約や非核兵器地帯の拡大を提唱した。
核問題の専門家ら5人によるシンポジウムで、東京大公共政策大学院の鈴木達治郎客員教授は核拡散を防ぐ多国間の核燃料管理方法を説明。モンゴルのエンクサイハン駐オーストリア大使は核兵器の先制不使用宣言の意義を説き、「日本など『核の傘』の下にある国が、核保有国の考えを変えるよう行動してほしい」と訴えかけた。
広島市立大広島平和研究所の浅井基文所長は「米国のオバマ大統領をさらに廃絶の側へ引き寄せるエネルギーをつくりだすことが急務だ」と市民社会の役割を指摘した。
会議はIPPNW日本支部が主催し、南アジアとの合同開催は初めて。北朝鮮と韓国は欠席した。23日は南アジアの地域課題をめぐる討議があり、「広島宣言」を採択して閉会する。
(2009年8月23日朝刊掲載)
核廃絶へ「広島宣言」 IPPNW アジア会議が閉幕
■記者 東海右佐衛門直柄
核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の北アジア・南アジア合同地域会議は23日、広島市中区の広島国際会議場で講演や医学生の活動報告があった。続く閉会式で、核兵器禁止条約や北東アジア非核兵器地帯化に向けた取り組みを各国政府に求める「広島宣言」を採択。2日間の日程を終えて閉幕した。
宣言は、碓井静照IPPNW日本支部長が読み上げ、拍手で承認した。核兵器の全面禁止条約のほか、包括的核実験禁止条約(CTBT)など核軍縮にかかわる多国間条約の重要性を指摘。非核兵器地帯については北東アジアの早期実現と南アジアでの取り組みを促した。
原子力の平和利用については「健康への安全性と環境の保護」など3点の強化を求めた。このほか、平和市長会議が提唱している「ヒロシマ・ナガサキ議定書」を支持。オバマ米大統領の被爆地訪問は廃絶への「新しい一歩」と位置付け、広島などでの招聘(しょうへい)の動きに賛同する姿勢を示した。
今回の地域会議は南北アジアの初の合同開催。閉会後に記者会見したインドのリブタール・シン・チャウラ支部長は「核兵器廃絶を訴える運動を続ける。広島でその思いを新たにした」と述べた。
<解説>「好機」生かす行動を IPPNW地域会議 医の視点 推進力に
■記者 林淳一郎
南北アジアが初めて被爆地で合同開催した核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の地域会議は、「核兵器廃絶、今こそ好機!」のテーマに沿い、廃絶に向けた提案や決意表明が相次いだ。しかし、その「好機」を生かした具体的な行動については、もう一歩踏み込んでほしかった。
初日のシンポジウムで、モンゴルのエンクサイハン駐オーストリア大使は「核兵器のない世界」を唱えるオバマ米大統領の発言を評価しつつ、こう強調した。「希望を抱くだけではなく、私たち自身が責任と決意を持って行動する必要がある」
米国とロシアの新たな核軍縮条約、米国の核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」は年内にもまとまる見通し。来年春には核拡散防止条約(NPT)再検討会議もある。核兵器廃絶の行方を左右する岐路に差し掛かった今こそ、市民の視点で核兵器に「ノー」を突き付け、各国政府に強く迫るときだ。その意味で、放射線被害など核の脅威を知る医師の影響力は甚大だ。
東西冷戦期の1980年、IPPNWは米国と旧ソ連の医師の対話から生まれた。その2年後に被爆国日本でも支部を設立。現在、58カ国約10万人が名を連ねる。
今回の会議では5月に核実験を強行した北朝鮮、韓国は不参加。北アジアの主役を欠く一方、南アジアの核保有国インド、パキスタンが参加した。初めて被爆地を訪れたという両国の医師も少なくなかった。
「ヒロシマ、ナガサキを繰り返してはならない。それは専門家たる医療人の責務」。閉会後の記者会見で日本支部長の碓井静照広島県医師会長は語った。核兵器の危うさを生命の尊さから説く―。被爆者の生の声に、医の視点が加わることが、「好機」の推進力になりうる。
(2009年8月24日朝刊掲載)
広島宣言(和訳*)
第7回IPPNW北アジア・南アジア合同地域会議
2009年8月23日、広島
第7回IPPNW北アジア・南アジア合同地域会議
2009年8月23日、広島
本年4月、アメリカのオバマ大統領がプラハで「核兵器のない世界を目指して具体的な方策をとる」と演説して以来、核兵器廃絶に関する世界の関心と希望が高まっている。この好機にIPPNWはここ広島―64年前に世界最初の原爆被災を受けた都市―において北アジア・南アジア合同地域会議を開催し、人間の健康と地球環境を護るためには核兵器の廃絶が絶対的な必要条件であることを改めて確認した。
核兵器のない世界の実現のためには、確固たる検証システムに裏打ちされた「核兵器禁止条約」のような包括的枠組みが必要である。私たちは核不拡散条約(NPT)、包括的核実験禁止条約(CTBT),兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)、二国間あるいは多国間の核兵器削減条約などの核軍縮に関わる重要な諸条約を支持する。これらの条約は明確な期限を付けて「核兵器のない世界」を実現するために重要であるが、核兵器廃絶が実現するまでの間は核兵器を管理するためにも必要である。私たちIPPNWの会員は政策決定者との対話を通じて、また他のNGOと協力して核兵器廃絶を訴えてきた。私たちは平和市長会議が提案した「ヒロシマ・ナガサキ議定書」を強く支持する。また、核不拡散・核軍縮国際委員会(ICNND)が年末までに出す提言のなかに、核兵器廃絶の明確な期限と具体的な方策が含まれるよう要請する。
非核兵器地帯条約は、核兵器のない世界が実現するまでの間、核兵器に依存する安全保障の枠組みから脱却し、対話による共生への道を開くものである。北東アジアについては既に現実的な非核兵器地帯構想が提案されている。最近の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核実験は、この構想に冷や水を浴びせるものであるが、非核化のための協議の枠組みは未だ残っている。私たちは北東アジア非核兵器地帯の早期の実現を強く要望する。私たちは、南アジア地域の政府によっても同様の取組がなされることを歓迎する。
温室効果ガス排出の削減のために世界の原子力発電計画が急増していることに鑑み、原子力の民生利用に際して「人間の健康への安全性と環境の保護」、「核分裂性物質と機微な技術の拡散の防御」、「軍事利用につながらないための保障措置」の強化を要求する。さらに、核燃料の濃縮や再処理が、兵器級核分裂性物質の生産につながることを防止するための枠組みや技術の開発が重要である。
核兵器廃絶への道は、与えられるものではなく、努力して掴みとらなくてはならない。オバマ大統領の広島訪問、広島への第一歩こそが、核兵器廃絶への新しい道である。
私たちは今、核兵器廃絶への道と、核兵器が際限なく拡散する道の岐路に立っている。私たちは、世界中の人々と政府が核兵器廃絶の実現のために力を合わせるよう呼びかける。
*英文を正文とする。
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