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社説・コラム

コラム 視点 「不都合な真実」

■センター長 田城 明

 旧知のマーティン・シャーウィン氏に電話インタビューした際、彼は「核兵器は最も不都合な真実だ」と言った。「不都合な真実」といえば、アル・ゴア米前副大統領が出演して日本でも話題を呼んだ地球温暖化を警告するドキュメンタリー映画の題名である。

 温暖化に伴うさまざまな自然の変化を映像で示しながら、環境を守るためには、私たちの生活様式を変えなければならないと訴えた。環境問題は、米大統領選でも大きな争点の一つになっている。しかし、核兵器の「不都合性」がなぜもっと語られないのか。

 核兵器を使用すれば、想像を絶する甚大な被害をもたらす。プルトニウムのような危険な核物質がテロリストの手に渡り、人口密集地で「ダーティ・ボム(汚い爆弾)」として使われても、その被害は計り知れない。

 私は2000年秋から翌年にかけて、米国と旧ソ連の主要な核関連施設を取材し、放射性廃棄物などによる汚染や被曝(ひばく)実態をシリーズでリポートした。現地で取材をすれば、「不都合な真実」は容易に見えてくる。ところが、米国もロシアの主要メディアも、こうした問題をほとんど取り上げない。深刻な環境汚染が存在しながら、国民が知らないだけなのだ。

 原爆による広島・長崎の惨禍は、核兵器がもたらす不都合な真実の象徴である。その真実をアメリカ市民に知らせ、大統領選の争点にしようと、広島市は全米各地で原爆展を順次開催中だ。伝え、広げる。小さな波紋が輪を広げるように、その効果はきっと表れるだろう。それを信じて、被爆地広島の地道な取り組みは続く。

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