×

社説・コラム

被爆建物とアート 被爆者の心情を受けとめ発信したい

■記者 田原直樹

 中学生が岡本太郎の原爆壁画「明日の神話」を模し作ったちぎり絵が、旧日本銀行広島支店(広島市中区)に展示中だ。市民の熱意にもかかわらず、実現しなかった壁画誘致。だが被爆建物の中で、2分の1サイズのちぎり絵「明日の神話」が語り掛けるものは少なくないだろう。

 本川小学校(同)に残る被爆建物で昨年暮れ、彫刻展があった。原爆がテーマの作品ではないが、量感ある立像は当時の状態をとどめる空間で、深い悲しみをたたえて見えた。

 彫刻展の記事を掲載後、被爆者親族という方から匿名の手紙をいただいた。「芸術ならどこで展示してもよいのでしょうか」。肉親の死んだ場所での開催に対する疑問や心情が記してある。原爆に遭った人や肉親を失った方には、冒涜(ぼうとく)と映るのだろうか。

 あの日から62年余。ヒロシマを風化させまいと願う美術家の多様な取り組みがある。被爆建物という場を要素とする制作も。空間と一体となることで、高い訴求力を帯びた表現となるアートもある。被爆者や遺族と悲しみを共有する機会ともなりうるのではないか。

 被爆者の心情を重く受けとめながら、平和希求のアートを発信したい。

年別アーカイブ