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社説・コラム

コラム 視点 「被爆者医療の蓄積と国際貢献」

■センター長 田城 明

 「疲れやすいのは被曝(ひばく)のせいだろうか」「ヒロシマの専門医ならきっと治せるだろう、一度診てもらいたい」。放射能汚染地帯に住む住民や被曝事故に遭った人たちが示した不安と被爆地広島への大きな期待…。

 かつて中国新聞が取り組んだ連載企画「世界のヒバクシャ」(1989-90年)取材班に加わった記者たちは、延べ15カ国21地域に及んだ取材先で、何度もこんな場面に出くわした。病気や健康不安を抱えるヒバクシャにとって、ヒロシマは「平和や核兵器廃絶を訴える原点」であるよりも前に、被爆者治療で蓄積した医療技術によって「病気を治してくれる『医療機関』」として映っていたのだ。

 広島・長崎以後も、不幸にして増え続ける膨大な数の放射線被害者。彼らの多くは自国政府からもほとんど顧みられることのない状況に置かれていた。

 私たち取材班は各地で遭遇したこうした体験を基に、広島県・市、地元医療機関に対して、ヒロシマの役割として医療面での貢献を訴えた。その呼び掛けに、当時の竹下虎之助知事が積極的に応えた。1990年には県が窓口になり、病院跡地に放置された医療用放射線源(セシウム137)に触れ、200人以上が被曝したブラジル・ゴイアニア市から最初の研修医を受け入れた。そして翌年、広島県と広島市が財政負担をし、放射線被曝者医療国際協力推進協議会(HICARE)が誕生した。

 あれから17年。広島の医師をはじめ医療従事者は、海外から多くの医師らを受け入れたり、現地を訪ねたりして指導に当たってきた。チェルノブイリ原発事故被災者や旧ソ連セミパラチンスク核実験被災者には、広島の市民団体とも連携して、継続的支援を続けるなど大きな成果も生んでいる。

 一方で課題も残る。広島で研修を受けた医師らが帰国後、在外被爆者を含め、実際にどれだけヒバクシャ治療に携わっているのか。もう一つの被爆地長崎との連携はどうあるべきか。こうした点への検証を通じて、より効果的な支援の在り方も見いだせよう。

 核兵器、核兵器工場、原発、放射性廃棄物…。地球上では、いつ、どこで新たなヒバクシャが生まれても不思議ではない。放射能兵器である劣化ウラン弾の使用によって、イラクなどすでに多くのヒバクシャが生まれている。医療面でのヒロシマ・ナガサキの役割は、今後ますます大きくなるだろう。

 政府関係者らによって「国際貢献」が唱えられて久しい。「唯一の被爆国」を標ぼうする日本は、HICAREへの財政支援など、被爆地との連携を深めて、医療分野での国際貢献にこそもっと力を注ぐべきである。

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