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社説・コラム

社説 米の衛星撃墜 宇宙軍拡への懸念募る

 成功した、と手放しに喜んでいるわけにはいくまい。米国が迎撃ミサイル(SM3)を命中させ、大気圏外で破壊した偵察衛星である。宇宙軍拡競争につながらないか、気掛かりだ。

 衛星は、乗用車よりひと回り大きい程度。毒性が強く、発がん性も指摘される燃料を積んでいた。2006年の打ち上げ直後から遠隔操作ができなくなり、3月第1週にも地球に落下する見通しになっていた。

 狙い通り撃墜できたため、燃料タンクが地上に到達して周辺を汚染することが防げた。心配されていた宇宙ごみの拡散も、最小限にとどまる、という。

 しかし、ほかにも目的があったのではないか、疑問が残る。ミサイル防衛(MD)システムを応用し、洋上から戦術ミサイルを使う初めての試み。最先端の宇宙軍事技術を誇示する狙いがあったとも報じられている。

 昨年1月、中国が自国の気象衛星を弾道ミサイルで破壊した。科学技術上の実験と説明したが、米国をはじめ国際社会は敏感に反応。「宇宙の平和利用に反する」などと強く非難した。

 今回は、立場が逆になった。落下した衛星から軍事機密が漏れるのを防ぐため、との見方もある。宇宙軍拡への扉を開きかねないというロシアや中国の懸念は、杞憂(きゆう)とは言い切れないだろう。

 米国が02年、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約から一方的に脱退したことも疑念を招く一因だ。宇宙の軍備管理を厳格に課す内容が、MD計画推進の妨げになったようだ。

 日本も無関係ではない。米国と進めているMD計画で昨年末、イージス艦からのSM3発射試験を米ハワイ沖で実施した。配備済みの地対空ミサイルと合わせ、運用段階へと踏み出している。

 宇宙開発は「非軍事に限る」とした1969年の国会決議を見直す動きも出ている。与党は昨年、専守防衛の範囲で軍事利用を可能にする宇宙基本法案を議員提案。国会審議中で、成立すれば、偵察衛星が持てるようになる。国内に不安の声があるのも当然だろう。

 懸念解消には、宇宙の軍事利用を制限する国際的枠組みをつくる必要があろう。日本も積極的に関与すべきだ。米国も従来のように反対ばかりでは、疑念が広がる一方だろう。宇宙を戦場にしない決意を示してほしい。宇宙戦争は映画の中だけにしてもらいたい。

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