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社説・コラム

コラム 視点 「人類の安全保障」

■センター長 田城 明

 広島、長崎両市長が提唱し、26年前に「世界平和連帯都市市長会議」の名で始まった平和市長会議。1982年といえば、米中距離核ミサイルの欧州配備などをめぐり米ソが激しく対立。核戦争の危機を感じた欧州や米国では、市民による大規模な反核デモが起き、被爆地でも3月に「ヒロシマ20万人集会」が開かれた。駆け出し記者として取材をしながら、草の根市民の力を感じたときである。

 国家間の交渉では「人類益」よりも、ほとんど常に「国益」が優先される。核軍縮交渉はその典型ともいえる。「人類の安全保障」ではなく「自国の安全保障」を盾に、互いに角を突き合わせて譲ろうとしない。「ラッセル・アインシュタイン宣言」(55年)にうたわれた「人間性を忘れるな、その他のことは忘れなさい」といった精神はみじんもない。

 最も身近に住民の命や暮らし、財産を守る立場にある世界の都市(自治体)が「国家」の枠を超えて連帯し、核兵器廃絶を目指そう―。そんな呼び掛けが当時、何とも新鮮に思えた。

 そして今、平和市長会議への加盟都市は127カ国・地域の2000都市を超えた。「2020年までに核兵器廃絶を」という市長会議が掲げた明確なビジョンに、欧米を中心に多くの都市が共鳴。市民や非政府組織(NGO)の期待も高まっている。

 この力を束ね、圧倒的多数を占める非核保有国の政府と連携して国連の場などで核保有国にどう迫っていくか。私たちは世界に向かってと同時に、自国政府にも被爆国として強いイニシアチブを取るよう働きを強めねばならない。

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