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社説・コラム

ノーベル平和賞のマグアイアさんに聞く 九条は世界平和への希望

■記者 馬上稔子

 広島市内で5日にあった「9条世界会議ヒロシマ」に参加した北アイルランドのノーベル平和賞受賞者メイリード・マグアイアさん(64)にインタビューした。彼女は世界の平和を実現するために、戦争放棄を規定した日本国憲法9条の非暴力の精神を「世界にもっとアピールする必要がある」と力説した。

-長年、政治紛争が続いた北アイルランドで、非暴力による紛争解決に貢献されました。どのような原体験がありますか。
 1976年に妹の3人の子どもが、英国からの独立を目指すカトリック系のアイルランド共和軍(IRA)と英国陸軍の紛争の巻き添えになり殺された。少数派のカトリック教徒は社会的差別を受けてきた。私自身もカトリック教徒だが、暴力がもたらすのはさらなる暴力と破壊だけ。あの時の悲しい体験から、すべての武器を拒否しなければ平和は訪れないという考えに至った。

-世界では今なお暴力が絶えません。非暴力の世界を築くことは可能ですか。
 大多数の人々は人を殺したことがない。宗教や民族に関係なく、だれもがただ家族や自分の町を愛し、幸せな生活を築こうとしているだけ。「殺す」ことは人間の本質に反している。そのことに多くの人が気づけば、暴力ではなく非暴力の文化を求め、平和な世界をつくり出すことができるだろう。

-そのためにどのような取り組みが必要ですか。
 何よりも市民レベルの交流が大切だ。北アイルランドでは、プロテスタント系とカトリック系の住民が別の地域に住んで分断され、互いに不安や恐れを抱いていた。しかし、私たちの運動を通じて相互交流が生まれ、友達ができると恐れることなど何もないのだと知った。
 こうした人と人の交流が国境を越えて深まれば、相手への不信や恐怖心は除かれる。国と国の関係も良くなる。宗教や文化、国籍などすべての違いを超えることが、偏狭なナショナリズムや軍国主義を克服する助けになると信じている。人と人、国同士が信頼し合えれば、おのずと兵器は必要なくなる。

-憲法9条は現在の国際情勢の中でどのような意義を持っているのでしょうか。
 世界、特にアジアにとって、平和を守るための大きな希望だと思う。ほかにも9条の精神を憲法に採り入れたいと思う国は多いはず。日本は多くの国々がその精神を採り入れるように手助けする大切な役目がある。9条は日本の宝物。世界中と共有してほしい。

-被爆地広島・長崎、日本の役割は。
 これからも悲惨な原爆体験を基に、世界中に核兵器がもたらす苦しみや被害を訴え続けてほしい。日本は唯一の被爆国として「核兵器を使ってはいけない」というメッセージを発信すると同時に、「暴力」ではなく「和解」によって平和を築こうと努力してきた経験を持つ。その精神を世界に伝える大きな責任がある。

メイリード・マグアイア
1944年、北アイルランド・ベルファスト生まれ。平和団体「ピース・ピープル(平和の人々)」の共同創設者で名誉会長。76年度ノーベル平和賞受賞。現在もパレスチナ問題解決のために現地を訪れるなど平和活動を続けている。

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