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社説・コラム

広島ときずな深めたい アラグチ駐日イラン大使

■記者 桑島美帆

 着任あいさつのため、5月21日に広島市を訪れたセイエッド・アッバス・アラグチ駐日イラン大使(45)に話を聞いた。ウラン濃縮活動などイランの核開発疑惑に対して国連安全保障理事会が3度の制裁決議を出すなか、「原子力の平和利用」を主張するイラン。アラグチ大使も広島で同じ言葉を繰り返した。

 -着任後初の訪問先に広島を選んだ理由は何ですか。
 広島は平和のシンボルだ。広島の人々への深い敬意と共感を表したかった。「平和を愛する国」というイランの真の姿も見てほしい。イランが核兵器を開発しているとの否定的な報道が多いが、間違っている。われわれのウラン濃縮活動の目的は、原子力の平和利用であり核兵器開発のためではない。

 -原爆資料館で何を感じましたか。
 言葉では言い表せない。皮膚がただれた人や、顔をひどく損傷した人…。特に、被爆直後の写真に強い衝撃を受けた。その姿はイラン・イラク戦争(1980-88年)の毒ガス兵器の被害者と重なる。私も多くの友人を亡くした。足を切断したり失明した親友もいる。核兵器をはじめとする大量破壊兵器は即刻廃絶すべきだ。

 -5月に、安保理常任理事国とドイツへ「新提案」を出したそうですね。
 核不拡散や薬物、テロリスト対策など地球規模の問題で、イランが前向きに国際社会と協調する意思がある、ということを盛り込んだ。核不拡散では核拡散防止条約(NPT)体制と国際原子力機関(IAEA)の監視の強化を求めた。

 -ウラン濃縮活動はやめないのですか。
 なぜやめる必要があるのか。原子力開発はNPTでも認められており、日本にも原発はある。イランの権利を奪う安保理の決議はフェアではない。友好国である日本政府には、ぜひ主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)でイランの立場を後押ししてほしい。

 -被爆地広島に求めることは。
 既に広島では、イランの毒ガス被害者を支援している市民団体や医師がいると聞く。サッカーの親善試合や文化交流、広島市長とテヘラン市長が行き来するなど都市レベルのきずなを深め、世界に向けてイランの平和の精神を広めたい。

セイエッド・アッバス・アラグチ
1962年、テヘラン生まれ。英国のケント大政治学科博士号取得。88年外務省入省。99年にフィンランド大使、2004年国際関係大学(テヘラン)学長、05年外務事務次官を経て、08年2月に次期大使として来日。3月から現職。

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