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社説・コラム

社説 原爆症認定訴訟 幅広い救済へ決断急げ

 原爆症認定訴訟は、仙台高裁と大阪高裁でも相次いで国が敗訴した。被爆者の申請を却下した国の処分は違法-と判決は明確に言い切った。今年4月、原爆症を幅広く認定する新基準へかじを切った国だったが、運用を始めても裁判はそのまま続けていた。その態度を指弾する内容だ。

 認定を求めて2003年に始まった集団訴訟。今回の2件を含めて全国15地裁と6高裁で審理されている。国は8連敗である。

 認定の範囲を狭く絞り込んできた審査の在り方にこだわり裁判で争い続けるのは、もうやめるべきだ。司法判断を尊重し、幅広い被爆者救済へと根本的に姿勢を切り替えなければならない。

 被爆者援護法によれば、原爆症認定のためには、疾病が原爆で引き起こされたという「放射性起因性」と、現在も治療が必要という「要医療性」の二つの要件が必要とされている。

 従来は放射線の影響によるがんなど、個別の病気発生の可能性を数値化した「原因確率」を認定基準の柱としてきたが、これをやめて新基準へ移行した。被爆の実態に合わないと、6つの地裁判決で批判を受けたからだ。

 新基準では、爆心地から約3.5キロ以内で被爆▽原爆投下後、約100時間以内に爆心地付近に入市-などの条件を満たし、がんや白内障など5つの疾病にかかった被爆者は積極的に認定する。「放射性起因性」の部分を広げた一方、「要医療性」については緩和されず、問題として残った。

 仙台高裁で争点となったのは、新基準でも変えていなかった要医療性だ。これを判決は幅広く判断して2人の原告を救済。新基準の不備を指摘した形となった。また、要件を満たすのは証拠上明らかなのに争いを続けたことについては「被爆者援護法の救済の精神に照らすと、柔軟な姿勢に欠けていた」とも批判した。

 大阪高裁判決も、原告9人全員の不認定処分取り消しを認めた。うち5人は新基準の5疾病に該当していない甲状腺機能低下症や貧血だったが、被爆状況、疾病の状態などを総合的に判断し、原爆症と認めた。

 国が否定したものを司法が救済するパターンが続いている。「疑わしきは被爆者の利益に」という司法判断の流れを、国は重く受け止める必要がある。司法と国の判断のずれが続くならば解消しなければなるまい。対象疾病の見直しなど、不備な点は早急に改め、個別審査も重視してほしい。

 確かに4月以降、原爆症の認定は増えてきた。だが、被爆者の平均年齢は77歳。約25万人の被爆者のうち認定者は1%未満しかいない。被爆者一人一人の実情に向き合う努力が、国に一層求められている。

 2つの高裁判決を受け、原告団は厚生労働省への働き掛けを予定している。きのうは国会内で超党派の議員の集会もあり、上告断念を訴えた。国は一日も早く決断するしかない。

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