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社説・コラム

社説 宇宙基本法成立 軍事利用にどう歯止め

 宇宙空間の防衛利用に積極的に道を開く宇宙基本法が成立した。従来の「平和目的」から「安全保障」へとかじを切る宇宙政策の大転換である。自民、公明、民主の共同提案による議員立法だ。今後どう運用されていくのか、監視の目を光らせたい。  「平和の目的に限る」を原則としてきたのは、1969年の国会決議からである。宇宙の開発利用を「非軍事」に限定すると政府は説明してきた。

 これに先立つ67年に国連の宇宙条約を批准。この条約は平和利用を定めた内容だが、「非侵略」の範囲で軍事利用も認めているため、多くの国が軍事衛星を打ち上げてきた。宇宙基本法は、いわば「非軍事」のハードルを「非侵略」にまで下げ、世界の大勢に足並みをそろえようとするものだ。

 従来、平和利用が何より大切という姿勢だった。新法にも「憲法の平和主義の理念にのっとる」という文言は盛り込まれている。ただ、注目しなければならないのは「日本の安全保障に資する」と位置づけたことである。

 宇宙政策の原則が、時代の変化につれて変容してきたのも事実だ。80年代、政府は「社会で一般化した技術なら」という名目で、自衛隊が米国の軍事用通信衛星を利用できるようにした。90年代になると、北朝鮮による弾道ミサイル発射を背景に情報収集衛星を導入。それでも、解像能力は商業衛星並みに抑えてきた。

 つまり「平和目的」という理由で一定の制約をかけてきたわけだ。これに対し、新法の狙いは、米国頼みの衛星情報から、より精度の高い自前の情報収集への転換にある。「安全保障」の文言を入れることで制約を取り払い、「軍事利用」に道を開いたわけだ。

 これからは解像能力の高い情報収集衛星や、弾道ミサイル発射を探知する早期警戒衛星の導入などが可能になるという。だが、例えば、ほかの衛星を攻撃する衛星はどうなるのだろう。防衛利用をどこまで認めるべきか、歯止めの論議が不可欠である。

 宇宙から情報を得ることの必要性について否定する国民はいないだろう。しかし、法整備を宇宙への兵器配備の入り口としてはならない。新法では宇宙政策を総合的に推進するため、首相を本部長とする「宇宙開発戦略本部」の設置などを盛り込んでいる。専守防衛としてどこまでを認めるのか、基本計画づくりの段階で国民がチェック機能を働かせたい。

 宇宙産業振興も柱の一つになっている。企業化への優遇策や国際競争力の強化をうたう。確かに技術開発の推進力にはなるだろう。しかし、開発に防衛目的が絡めば透明性が失われ、産軍癒着の恐れもある。平和目的で築いてきた小惑星探査機や月周回衛星などの宇宙技術も伸ばしていくべきだ。

 被爆者団体も、宇宙を際限のない「戦場」にすることには憤りと懸念を表明、防衛利用に抗議の声を上げている。宇宙の軍事化をなし崩し的に進めてはならない。

(2008年5月22日朝刊掲載)

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