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社説・コラム

コラム 視点 「力の文明」から「愛の文明」へ

■センター長 田城 明

 「力の文明から愛の文明へ」-。こう説いたのは「反核の父」と呼ばれた広島の被爆者の森瀧市郎さん(1901-94年)である。核実験が行われるたびに平和記念公園内の原爆慰霊碑前で抗議の座り込みを続けた彼は、倫理学者としての思索と平和活動の中からこうも言った。「精神的原子の連鎖反応が物質的原子の連鎖反応に打ち勝たねばならぬ」と。

 白髪につえ。足が衰えた晩年にあっても、抗議の座り込みをやめなかった。好転せぬ世界の核状況にもくじけず、立ち向かった老被爆者。りりしいその姿からは、人間としての尊厳と強い意志がにじみ、無言のうちに多くの人々を鼓舞した。

 森瀧さんが亡くなって14年。この間、核実験の回数こそ激減したものの、核保有国は逆に増えた。「力の文明」支配は、核抑止力信奉にみられるように相変わらず続いている。核兵器の小型化などによる使用の可能性は、以前よりも高まっているのが現実だ。

 「核兵器で自国民を守る」との考えは、仮想敵国の核攻撃の前に「自国民をさらす」ということでもある。核兵器の破壊力や、放射性物質による「死の灰」が及ぼす広範な影響を考えれば、それは単に自国民のみならず、人類全体を「人質」に取っているのと同じである。

 地球上の一握りの国家や一部の権力者の手に、人類を破滅に導きかねない核兵器をいつまでも委ねておくわけにはいくまい。

 欧州を中心にこれまでに世界129カ国・地域の約2300都市が加盟する平和市長会議(会長・秋葉忠利広島市長)は、「2020年までに核兵器を廃絶しよう」と訴えている。住民の命と財産を守る立場にある世界の都市(自治体)が、広島・長崎両市の呼びかけに呼応して核兵器廃絶を求めるのは、武力によっては解決できない地球上の差し迫った問題を、「愛の文明」によって解決しようとのアピールでもある。

(2008年6月16日朝刊掲載)

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