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社説・コラム

核廃絶への視点 中国新聞の核兵器アンケートの声に答えて <2>

アンケートの声 「ナガサキの次はなかった。核抑止力は有効ではないか」

神戸大大学院教授 ロニー・アレキサンダーさん(52)
「抑止論は『神話』にすぎぬ」「 軍拡や放射線被害招いた」


■聞き手 桑島美帆

 核抑止論は「強ければ安全」という古くからある考えに乗った神話だ。「最強の破壊力がある核兵器を持っていれば誰も攻撃してこない。自滅すると知っていながら武力攻撃に踏み切る国などないからだ」。一見、合理的で説得力があり、支持を得やすい。しかし間違いだらけの論理だ。

◆アンケートでは、「冷戦期の核抑止力は有効だった」と考える人が海外で27%、日本国内は45%に上った。冷戦崩壊後は国内外ともに、核抑止力を否定する声が大きい。

 テロリストや政治情勢が不安定な地域では「抑止が効かない」と指摘されるようになった。核抑止力は「国家は合理的に行動する」という前提の下に成立しているからだ。

 しかし、国家だからといって合理的かつ理性的に行動するとは限らない。第二次世界大戦中に米国で核兵器を開発した「マンハッタン計画」がいい例だ。軍事政権、科学者、産業が一丸となり、既に負けが決まっていた日本に2発もの原子爆弾を落とした。間違った国家の論理が暴走し、最悪の事態を招いた。

 核兵器は「テロリストの手に渡ったら危険」というものではない。どの核保有国でも勘違いや単純ミスが引き金となり、使用される危険性がある。

◆1950年代半ば、米国はアイゼンハワー政権下で核抑止を軍事戦略の柱に据えた。米ソは膨大な費用を投じ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、中性子爆弾などを開発。新型核兵器の開発をエスカレートさせた。

 核抑止戦略は「相手よりも強くなりたい」という願望を生み、世界の軍拡を進めた。核保有国は「やったらやられる」と自制するより、「持っているから自分も強い」と気が大きくなり、武力攻撃の敷居を低くする。

 核戦争が今までなかったのは運が良かっただけ。米国はどの戦争でも核兵器を常に使えるようにしておいて、化学兵器や劣化ウラン弾など、多様な兵器を使ってきた。

 「抑止力」といっても「必要であれば」使われるのが核兵器。それを阻止してきたのは、世界に広がった反核世論の力が大きかったのではないか。

◆核抑止力肯定意見には「広島・長崎の次に核戦争はなかった」との声が目立った。

 核実験や核兵器の開発・製造がもたらす放射線被害はほとんど知られていない。46年7月、太平洋ビキニ環礁で被曝(ひばく)した米兵は、手足が腫れ上がり、片手を残してすべて切断。37年後にがんで死亡した。

 その記録フィルムを学生に見せると皆衝撃を受け、核被害に関心を持つ。どこでも教わらないからだ。米国で教育を受けた私は「きのこ雲はかっこいい」とすら思っていた。

 国家や人々の間で「なんとなく」まん延している「神話」を覆すため、私たちは今もある核兵器被害と真剣に向き合うべきだ。

ロニー・アレキサンダー
 1956年米国生まれ。77年エール大卒業後、広島YMCAで5年間勤務。神戸大法学部助手、助教授を経て93年から教授。専門は国際関係論、平和研究など。

(2008年7月27日朝刊掲載)

「核兵器に関するアンケート」 回答の全容はこちらから

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