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社説・コラム

核廃絶への視点 中国新聞の核兵器アンケートの声に答えて <3>

アンケートの声 「北朝鮮を含む非核兵器地帯ができるのか」

国際交流NGO「ピースボート」共同代表 川崎哲さん(39)
「有効な安全保障システムだ」 「圧力外交には限界がある」


■聞き手 久保田剛

 ブッシュ米政権の圧力一辺倒の外交政策が行き着いた先は、北朝鮮の核実験だった。対話に転じると、北朝鮮は核兵器廃絶のプロセスを歩みだした。力の政策の限界は、はっきりした。今こそ、北東アジア非核兵器地帯の実現へ粘り強い対話を重ねるべきだ。

◆日本、韓国、北朝鮮が自国を非核兵器地帯とし、米国、中国、ロシアはこの3カ国には核攻撃しないと誓約する北東アジア非核兵器地帯構想。拉致問題などで北朝鮮に不信感を抱いたり、核抑止力を信じたりする人たちは実現を疑問視する。

 敵前で武器を捨てる怖さは感情的には分かる。だが、われわれは周囲との関係性の中で生きている。自らの軍縮が相手の軍縮も促すという相互関係を念頭に北朝鮮、中国と向き合うべきだ。

 2002年から06年にかけ、ブッシュ大統領は北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しで非難し圧力をかけ続けた。

 米国や英国がイラク戦争の開戦理由としたイラクの大量破壊兵器。事実上、国際原子力機関(IAEA)などの査察を中断させて開戦したが、結局は発見できなかった。米政権は国民の支持だけでなく、国際的な信頼も大きく失った。

 大切なのは、北朝鮮の核兵器が検証できる状態になったこと。米国の方針転換を受け、北朝鮮は核計画を申告した。軍事専門家が、したり顔で推測するのではなく、公正で透明性のある国際的な枠組みの中で、事実を公開させればいい。イラクの教訓を、北朝鮮の非核化に生かすべきだ。

◆中南米やアフリカ、南太平洋地域などに現存する非核兵器地帯。モンゴルは一国で非核地帯を宣言し、国連決議で地位を確立した。

 被爆国日本が非核兵器地帯になるのは当然だ。非核三原則があるが、非核兵器法を制定し、それを国際公約とするのが理想だ。

 現実には、核兵器を「持ち込ませず」で米国との「密約」をどうするか。すでに艦船で核兵器が持ち込まれている疑惑がある。日本政府は法文化できるのか。核配備というオプションを残したい米国は反対するだろう。

 国民は、米国頼みだけではいけないと思い始めている。政治の中枢も日米同盟の絶対視をやめる時だ。日米安保は日本の安全を守っているのか。逆に中国や北朝鮮との緊張関係を高めていないか。

 「核兵器を持たなくても安心」と思える環境をつくるため、自前の安全保障システムをつくろう。そうすれば、核兵器の役割、安保の役割が低くなり、緊張緩和につながる。

  ◆洞爺湖サミットの宣言には「透明性ある核兵器の削減」が盛り込まれた。9月には下院議長が広島に集う。

 主要国が核軍縮を打ち出したのは、中国やパキスタンの軍備増強をけん制する狙いがある。核兵器の大半を保有する米国とロシアが率先して核兵器削減を進めるのは当然だ。

 サミット文書で明確に削減要求を盛り込んだのは初めて。下院議長会議では日本がリーダーシップを発揮し、合意を生かす必要がある。国会で非核兵器地帯構想の議論を始め、2010年のNPT再検討会議でも提案すべきだ。

川崎哲(かわさき・あきら)
 1968年東京都生まれ。恵泉女学園大非常勤講師。南山大社会倫理研究所研究員。今年5月にあった「9条世界会議」では日本実行委員会事務局長を務めた。

(2008年7月28日朝刊掲載)

「核兵器に関するアンケート」 回答の全容はこちらから

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