×

社説・コラム

核廃絶への視点 中国新聞の核兵器アンケートの声に答えて <5>

アンケートの声 「米国の二重基準で揺らぐNPT。実効性に疑問 」

広島修道大准教授 佐渡紀子さん(35)
「核兵器廃絶へ唯一の枠組み」「日本は積極的な役割を」


■聞き手 桑島美帆

 核拡散防止条約(NPT)は米ロ英仏中の五カ国のみに核兵器保有を限定し、他国には認めていない。「不平等条約」と言われるゆえんだ。北朝鮮はひそかに核兵器を開発し、NPTから脱退を表明した。インド、パキスタン、イスラエルはメンバーに加盟しないで核兵器を手にした。

 そんな現実がある一方で、印パとイスラエルだけを除く190カ国が核軍縮を目指し、加盟している現実も無視できない。核兵器廃絶に向けた唯一の国際的な枠組みだ。

 「誠実に核軍縮交渉を行う」-。第6条ですべての加盟国に課せられている義務は、核兵器廃絶への確かな足がかりとなる。

◆米国は「平和利用」を主張するイランの核開発疑惑に経済制裁を加えていながら、イスラエルの核兵器保有は黙認。インドとは原子力協定を結んだ。米国のダブルスタンダード(二重基準)外交が、NPT体制の根幹を揺るがしている。

 この二重基準は中東地域の相互不信を深めるとともに、インドに対しては、NPTの枠外で核兵器を持っていながら、米国から原子力の平和利用で支援を受けるという前例をつくった。非加盟国への対応を一貫したものにしないと、NPTの価値は下がる。

 2000年の再検討会議で米国は、「核兵器廃絶に対する明確な約束」に合意する一方で、イスラエルやインドのNPT早期加盟を求める最終文書を受け入れた。2010年の会議でも二重基準を解消すべく、米国に同じ姿勢を求める必要がある。

◆1980年代に約7万発あった核弾頭数は、約2万6000発に減少した。だが、アンケートでは、国内の88%、海外の98%が「核拡散が増大した」と答えた。「米ロ英仏中の核政策」が最大の要因と指摘した人が多い。

 核軍縮を進めるにはまず、1万発以上の核兵器を持つ米ロ両国のイニシアチブが欠かせない。ブッシュ政権は2002年のモスクワ条約で戦略核弾頭を1700-2200に削減することを約束したが、一向に前進はない。

 5年に一度開かれるNPT再検討会議は、核兵器保有国が国際社会から核軍縮の成果を問われる場だ。非核保有国は連携して米ロにプレッシャーをかけ、二つの核大国に数値目標を掲げさせて核兵器削減を進めるべきだ。

◆米国のキッシンジャー元国務長官ら4氏による核兵器廃絶提言を受け、2月にノルウェー政府が「核兵器のない世界の達成」国際会議を開いた。ケビン・ラッド豪首相は6月に来日した際、「軍縮・不拡散に関する国際委員会」設立を日本政府に呼びかけた。

 海外では、2年後に迫った再検討会議に向け、NPT体制の維持・強化をうたった具体的な核軍縮プランの提案が続いている。日本は「核の傘」から脱却し、廃絶への強い姿勢を示すべきだ。

 平和市長会議が2020年までに核兵器廃絶を達成するため「ヒロシマ・ナガサキ議定書」を提唱しているが、日本政府はこれを支持する必要がある。

 次回会議では、米国の二重基準をなくさせた上で、保有国にさらなる核軍縮を約束させよう。

佐渡紀子(さど・のりこ)
 1972年広島市生まれ。2000年に大阪大大学院で博士号取得。同大助手、日本国際問題研究所研究員などを経て、05年から現職。専門は平和学と国際安全保障論。

(2008年7月30日朝刊掲載)

「核兵器に関するアンケート」 回答の全容はこちらから

年別アーカイブ