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社説・コラム

隠された核被害 新疆ウイグル自治区出身の元医師に聞く

■記者 金崎由美

 1964-96年にかけて45回もの核実験を行った中国は、核実験場の周辺住民が健康被害に苦しんでいることを一切認めていない。ロプノル核実験場があった新疆ウイグル自治区出身の元医師で、亡命先の英国からこのほど来日したアニワル・トフティさん(45)に「隠された核被害」の実態を聞いた。

 -核実験による被害を知ったきっかけは。
 ウルムチ市にある鉄道関係者のための病院で、腫瘍(しゅよう)外科医として働いていた。労働者は圧倒的多数が漢人なのに、入院患者は4分の1がウイグル人だった。94年、これを不審に思った病院側が新疆の各地を巡回し、鉄道関係者のがん調査を実施した。

 その結果、ウイグル人ががんになる率は、新疆以外の漢人よりも3割高かったのだ。漢人でも、新疆に30年以上住む集団はウイグル人と同じ結果が出た。しかも白血病、悪性リンパ腫、肺がんが目立って多い。患者に接しながら、核実験のせいだと確信した。

 -99年に、英国へ亡命することになりました。
 医師としてトルコに留学中、英国の放送局が接触してきたのをきっかけに、新疆への潜入取材に同行する決意をした。観光を装って記者たちと訪れた町や村は、悲惨な状況だった。四肢や脳、内臓に先天性の異常を持つ子どもが極端に多く、がんも多発。それでも、放射能に汚染された土地に住み続けていた。

 取材に協力したことで亡命を余儀なくされた。しかし、番組は83の放送局で放映され、核被害を世界に告発することができた。

 -しかし中国政府は核実験と被害の実態をほとんど明らかにしていません。
 中国が民主化しない限り、情報の開示は望めない。核兵器は中国を守る、という誤った考えも捨てないだろう。核被害の解明は民主化と表裏一体だ。だからこそ国際社会は中国に真実を語るよう圧力をかけてほしい。北京五輪を機に、国際社会が非民主的な中国を認知した形になることを恐れている。

 -初めて広島を訪れ、平和祈念式典に出席しました。
 ウイグル人の核被害を知る者として、原爆の惨禍を体験した広島をどうしても訪れたかった。それが、来日を思い立った理由だ。核被害に苦しむのは広島だけではない、ということも知ってほしかった。中国政府が核被害の存在を認めないため、現地の被爆者は治療すら受けられない。被爆者医療の進んだ日本が、ウイグル人被爆者の支援に動いてくれることを期待する。

アニワル・トフティ
  1963年、新疆ウイグル自治区ハミ生まれ。現在、在英ウイグル人協会会長。世界ウイグル会議英国全権代表。

(2008年8月9日朝刊掲載)

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