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社説・コラム

2010年NPT再検討会議の課題 ドアルテ国連代表に聞く

■記者 桑島美帆

 広島市の平和記念式典(6日)で国連事務総長のメッセージを代読した国連軍縮担当上級代表のセルジオ・ドアルテ氏(73)に、2010年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた課題を聞いた。ドアルテ氏は2005年の再検討会議で議長を務めた。

 -2年後に控えた再検討会議で乗り越えるべき課題は。
 核保有国の核軍縮は進んでいない。大半の非核保有国はNPTを不平等だと思っている。また核技術が拡散する一方で、国際原子力機関(IAEA)の査察によるチェック体制は原子力が核兵器開発に転用される危険性を十分防いでいない、という懸念もある。

 NPTは核不拡散と核軍縮、そして原子力の平和利用の3点を目指しているということをきちんと把握しておく必要がある。次の会議では、この3つの目的を達成するために、理解と合意を得なければならない。

 -「失敗だった」とされる前回のNPT再検討会議が残したものは何ですか。
 再検討会議は、過去5年間の核軍縮状況を振り返り、将来への方向性を示すものだ。前回の会議は結局、イランと北朝鮮の核拡散問題にばかりとらわれて何も生まれなかった。この教訓を受け止め、次回会議の成功につなげるべきだ。

 「核兵器廃絶に対する明確な約束」を盛り込んだ2000年当時に比べ、国際状況は大きく変わった。2001年に米中枢同時テロが起き、イランの核兵器開発疑惑も出てきた。核技術が拡散し、非核保有国の不満も増している。次回会議では、「2000年の合意」をステップに、これらの新しい問題にも対応した包括的な対処法を導きだすべきだ。

 -NPTの枠組みで核軍縮を進めることは可能でしょうか。
 核軍縮には、世界の大半の核兵器を保有する米ロの努力が欠かせない。ここ1、2年、キッシンジャー氏ら米国の元高官の呼びかけを契機に、世界中で核兵器廃絶を求める提言が相次いでいる。

 そこでは「核保有国は核軍縮について真剣に考えるときがきた」と提案している。次期米政権は、この提案に真剣に耳を傾け、米ロでさらなる核軍縮を進めてほしい。

 NPTの第6条をつきつめれば、核兵器廃絶条約を目指すことになる。そうなれば、核保有国はさまざまな言い訳をし、拒むだろう。一方、非人道的兵器に反対する国際世論も高まっている。対人地雷やクラスター爆弾のように、同じ目標を持つ国(とNGOなど)が連携して国際社会を動かし、事実上の全面禁止条約を実現した例もある。核兵器においてもその可能性がないわけではない。

セルジオ・ドアルテ
1934年、ブラジルのリオデジャネイロ生まれ。56年に同国外務省入省。在中国大使、オーストリア大使などを経て、2003年に軍縮と不拡散担当大使。昨年7月から現職。

(2008年8月8日朝刊掲載)

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