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社説・コラム

社説 米印の核協力協定 「容認」は不拡散に逆行

 インドの核兵器保有を認めることになり、核拡散防止条約(NPT)体制を崩壊させることにつながるのではないか。米国からインドへの原発技術や核燃料の輸出などを可能にする米印原子力協力協定である。

 日本政府は、協定を事実上容認する方針を固めたと報じられた。核兵器廃絶に逆行し、到底許されることではあるまい。

 国際原子力機関(IAEA)とインドとの協定で核施設への査察ができるので問題はないという。しかし対象となるのは、建設中も含め22基ある原子炉のうち、「民生用」とされる14基だけ。核兵器の材料となるプルトニウム生産炉や高速増殖炉は外されている。これで軍事転用を防げるとは思えない。核実験を再開した時の制裁措置も、協定には盛り込まれていない。

 インドが、どうしても原発推進が必要と言うなら、先にするべきことがある。核兵器を廃棄して、核爆発を伴う核実験をすべて禁じる包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准することだ。もちろんNPT加盟も欠かせない。

 というのも、NPTは、米国やロシアなど成立時の核保有国5カ国に核軍縮を義務付けている。残りの加盟国に対しては、核兵器を持つことをあきらめさせる代わりに、原子力を平和利用する権利を認めている。

 不平等だとの批判もあるが、担ってきた役割は小さくない。核兵器を今持っているとみられるのは米ロなど5カ国のほか、インドやパキスタン、イスラエルのNPT未加盟の3カ国と、2003年に脱退を表明した北朝鮮だけである。加盟の重みがうかがえる。

 米印協定を認めれば、インドは核兵器保有をとがめられないことになる。米国は、成長の見込めるインドの原子力市場への参入を拡大させるのが狙いなのだろうが、NPTの根幹が揺らぎ、核保有を新たに考える国が出かねない。

 自分の意に沿う国かどうか、相手によって対応を変える米国の二重基準も問題だ。インドやイスラエルの核保有は認めるのに、イランには核兵器開発疑惑の段階で経済制裁を科している。

 周辺国への影響も心配だ。特に隣国パキスタン。インドとは、カシミール地方の領有などをめぐって対立が続く。国際社会がインドだけ優遇すれば、反発は避けられまい。国際テロ組織アルカイダなどがアフガニスタンから越境して勢力を伸ばしているという。ムシャラフ大統領の辞任で混乱すれば、テロリストの手に核兵器が渡る恐れも一層高まりそうだ。

 今からでも遅くない。協定の発効を止める方法はある。日本を含む原子力供給グループは指針で、NPT未加盟国への協力を禁じている。変更する場合は、全会一致が原則だ。あすからの臨時総会で日本の果たすべき役割は大きい。核兵器廃絶を目指している以上、核拡散を容認するような行動は断じて許されない。被爆国として当たり前の態度を貫いてほしい。

(2008年8月20日朝刊掲載)

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