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社説・コラム

G8議長サミットへ 被爆者からの手紙 <2>

ピースボランティア 岡田恵美子さん(71)
地獄しか生まぬ核 米国に対してもノーの意思表示を

 あの日、私は8歳、国民学校の3年生でした。閃光(せんこう)と爆風の後に起きた光景は今でも忘れられません。「水、水を」「殺してくれ」といううめき声、両眼が垂れ下がったまま黒こげになっていた幼児、腸が飛び出して死んでいる2頭の馬…。

 第一県女(現皆実高校)1年生だった姉は朝「行ってきます」と出たきり帰ってきません。ガラスが体に突き刺さって大けがをした母は姉を捜してあちこちの収容所をまわりました。結局、見つからず、「ごめんね」と手を合わせていました。

 私は腹痛と嘔吐(おうと)で動けず頭髪は抜け、その後も歯茎からの出血が続いて、ずっと再生不良性貧血と闘ってきました。

 このような体験を、私はいろんな国に出かけて語り、自身も学んできました。

 インドでは独立記念日パレードの周辺で、はだしの子どもたちがごみの中に頭を突っ込み食べ物を探していました。サリーを着た10代前半の女の子が売春婦としてたくさん街角に立っていました。パキスタンでは、アフガニスタンからの難民キャンプで、10歳あまりの子が自分の赤ちゃんを育てていました。

 主要国と欧州議会の議長さん、核兵器を造り維持管理するためにいったいどれほどのお金がかかっているのでしょうか。地球には、3万発近い核弾頭があると聞いています。その1発分だけでも、飢えや貧困に苦しむ多くの子どもたちが救えます。そのことを考えて、しっかり議論してください。

 核兵器をいくら持っていても、核兵器がもたらすものは、私たちがすでに経験した、あの地獄のような現実でしかないのです。

 米国下院議長のナンシー・ペロシさんは、5人のお子さんと7人のお孫さんをお持ちだと聞きました。私は、とても親近感を感じています。

 女性は子を産み、命の尊さを身をもって感じながら育てます。議長さんたちにはぜひ、その気持ちで核兵器のこと、暴力や差別、飢えや貧困、そして地球環境のことをあわせて考えてほしいのです。

 米国とインドが結んだ「原子力協力協定」をめぐって、これを発効させようという動きが強まっているそうですね。核兵器が世界に広がることを防ぐ目的でできた核拡散防止条約(NPT)にインドは加盟していません。そのインドに対して米国が、核関連技術の提供という特別扱いをすることは、核兵器廃絶を進める唯一の枠組みであるNPT体制を形骸(けいがい)化させるものです。

 米国の特別扱いを日本政府が容認するようなことがあってはなりません。核兵器の廃絶を本気で考えるのなら、米国に対して言うべきことはきちんと言う政府であってほしい。広島でG8議長サミットを開くことを実現された河野さん。ぜひ、このことを、衆議院議長として福田首相にお伝えください。

岡田恵美子(おかだ・えみこ)
 1937年生まれ。50歳から被爆証言活動を始め、9年前から原爆資料館のヒロシマピースボランティアをしている。これまでに、米国、ドイツ、ポーランド、ウクライナ、インド、パキスタンを訪れて被爆体験を語った。洞爺湖サミットで来日したG8首脳にも、来広を要請する手紙を事前に送った。

(2008年8月27日朝刊掲載)

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